サステナビリティ経営や人的資本経営が重視される中で、「ダイバーシティ」「インクルージョン」は、企業の姿勢を示すスローガンではなく、持続的な価値創造を支える経営基盤として語られるようになっています。しかし、制度や方針を整えることだけで、すべての人が安心して力を発揮できる職場環境が自然と実現するわけではありません。
職場で交わされる日常の言葉や振る舞い、そして「どのような前提で人と向き合っていくか」といった一人ひとりの意識が、社員の心理的安全性やエンゲージメントに大きな影響を与えています。
2025年12月、JACグループのLGBTQ+ Committeeは、アクセンチュア社内でLGBTIQ+のERG活動をリードしている福嶋 剛氏を招き、「LGBTQ+フレンドリーな職場づくり」をテーマにしたセッションを開催しました。
前半は福嶋氏によるプレゼンテーション、後半はJACリクルートメントの社員である近藤との対談。当事者であるお二人が、それぞれの立場や経験をもとに、「特別な配慮」ではなく「前提をどう変えていくか」という視点から掘り下げました。
アクセンチュアにて、LGBTQ+フレンドリーな職場環境は、どのように育ってきたのか

(福嶋氏によるプレゼンテーションより)
福嶋氏:アクセンチュアにおけるLGBTIQ+の取り組みは、2014年頃から本格化しました。当時はまず社内で「課題を正しく理解する」ことが出発点でした。業界内のネットワーキングへの参画、東京レインボープライドへの参加、プライド月間の活動、そしてLGBTIQ+の基礎知識をまとめた社内向け冊子の作成。理解を深め、社内に共通認識をつくるところから始めたのです。
活動は年々広がり、プライドパレードへの参加も、当初は十数名規模だったものが、現在では全国各地のイベントに延べ1,000人規模で参加するまでになりました。
一方で、活動を広げれば広げるほど、新たな壁にもぶつかったといいます。
福嶋氏:「LGBTIQ+の活動は一部の意識の高い人たちだけのもの」「学んだけれど、具体的に何をすればいいか分からない」「自分には関係ない」「差別はしないが区別はする」――こうした声が、現場の率直な反応として見えてきました。理解の浸透だけでは、行動や文化を変えることにはつながりにくい。そこで2018年頃からは、社内外への継続的な啓発や体制整備を進めながら、2022年に活動方針を大きく見直しました。
転換のキーワードとなったのは、アクセンチュアが掲げる「I&D(Inclusion & Diversity)」。多様性(D)を語る前に、まずインクルージョン(I)――“誰もがここにいていい”という前提をつくることを起点に置く。福嶋氏は、これが活動の質を変える転換点だったと振り返ります。
福嶋氏:取り組みはLGBTIQ+に限らず、社内のさまざまな領域とも連動する形で進めました。
たとえば、障がいに関する取り組みでは、障がい者団体と外部のデザイン企業と協働し、プライドイベントで販売するバッジやバッグを制作。収益が企業の利益にならないよう、当事者コミュニティへ還元する仕組みもつくりました。
また、日本国内にとどまらず、フィリピンやインドなどの海外拠点とも連携し、各地域の状況を踏まえながら、社員が安心して働ける環境づくりを進めています。 今後もアクセンチュアでは、社内外の声に傾聴し、活動を続けていきます。
最後に福嶋氏は「LGBTQ+フレンドリーな企業のあり方を示し、社会とつないでいくことは、雇用と就労の観点からも意味がある」と締めくくりました。
アクセンチュアの取り組みは、理解を深めることから始まり、行動につなげ、文化として根づかせていくプロセスです。それを社内に閉じず、他企業やコミュニティ、地域や国境を越えて共有していく姿勢そのものが、企業としてのあり方を社会に示すひとつの形といえるでしょう。
「特別な配慮」ではなく、「前提を変えていく」こと
(福嶋氏と近藤の対談より)
―― LGBTQ+フレンドリーな職場をつくるために、何ができるのでしょうか
福嶋氏:LGBTIQ+当事者への配慮という言葉が「特別扱い」のように受け取られてしまうことがありますが、実際にはそうではありません。たとえば、同僚と「妻が」「夫が」と何気なく話すような日常会話がありますよね。その“当たり前”のことが、当事者にとってはできない場面も多いという事実を知ってもらえるだけでも、職場の空気は変わります。
例えば「アライである」「フレンドリーである」ことを、さりげなく可視化することが、安心感につながる側面もあるのです。

近藤:私も、JAC入社前、JACの社員とオンラインでお話しした際に、画面上にアライのマークが表示されているのを見て、一気に心がほぐれました。入社後も、PCに貼られているアライのステッカーを目にしたときも、「応援してくれている会社なんだな」と感じました。
画面の片隅や小さなステッカーひとつでも、「あなたの存在を否定しません」というメッセージになります。それだけで、当事者にとって勇気をもらえることもあります。
福嶋氏:その通りですね。アライの表明は、何かを主張するためのものではありません。当事者にとっては、『ここにいていい』と感じられる安心のサインなのです。
例えば海外に行ったとき、日本人の皆さんは、日本食レストランを見つけると少し安心しますよね。アライの可視化は、当事者にとってそれに近い感覚だと思います。
―― 当事者が「カミングアウトしやすい環境」をつくるヒントはありますか?
近藤:私は20歳の頃に職場や家族にカミングアウトし、以降30年近く、どの職場でもオープンにしてきました。JACでも、チームの理解はとても進んでいると感じています。
一方で、社内に当事者が少ないように見えるのは、「いない」のではなく「言えない」だけかもしれません。当事者同士でなくても、悩みや気持ちを安心して話せる場があれば、気持ちが楽になる人は多いと思います。
福嶋氏:誤解してほしくないのは、当事者の人数を把握すること自体が目的ではないという点です。ただ、匿名アンケートなどで課題が見えても、そこから踏み込んだ対話につなげることが難しいこともあります。
大切なのは、「守られている環境だから、話してもいい」と思えること。無理にカミングアウトを促すのではなく、当たり前に存在できる環境を整えていくことが必要だと考えています。
これは心理的安全性の話で、特定の人だけではなく、すべての人に必要なことです。日々の言動を振り返りながら、「誰かを無意識に排除していないか」を考えることが重要だと思います。
近藤:私自身、「やわらかい、しなやかな印象」だと言われたり、「どんな女性がタイプなの?」という何気ない言葉に、違和感を覚えることがあります。だからこそ、入社前に私の上司が、LGBTQ+当事者である自分がチームに入ってくることを、チームメンバーに「どこまで共有するか」を確認してくれた配慮は、とてもありがたかったです。
福嶋氏:「チームに入ってくる」という表現は、LGBTIQ+当事者が元々いない前提の言葉ですよね。皆さん、LGBTIQ+当事者の方は、どれくらいいらっしゃると思いますか? 調査によって異なりますが、全体の約1割程度いると言われています。これは、日本の4大苗字と同じくらいの割合だと言われています。つまり、LGBTIQ+当事者の方々は「いない」のではなく、「言えない」だけなのです。
だからこそ、チームにLGBTIQ+当事者が「入ってくる」ことを特別視するのではなく、予め「言える環境」をつくっていくことが重要だと思います。
「誰もが生き生きと働ける環境」を目指し続けること
福嶋氏:調査では、深刻な孤立や生きづらさを抱えている若者が少なくない現実も示されています。誰かが声を上げ、環境を整えなければ、支援につながらない人がいることも事実です。だからこそ、当事者の声を聞き、必要であれば「それは違う」と言ってもらえる関係性を築くことが重要だと思っています。
スムーズに行かないこともありますが、それでも私自身は、誰もが生き生きと働ける職場環境を作りたいという想いは変わりません。
近藤:JACでは、LGBTQ+当事者を含む多様な候補者が、安心してサービスを利用できるよう、コミュニケーションの質を人材紹介ビジネスの重要な要素として捉えています。候補者が企業に対して直接言いづらいこと、企業側が候補者に直接確認しにくいことについても、JACが間に立って調整することを前提とすることで、相互理解を促進しています。
その一環として、私はLGBTQ+コミッティにおいて、LGBTQ+当事者の候補者を担当する際のコンサルタント向けのガイドライン作成にも携わりました。
福嶋氏:そういった寄り添いは、とても大切なことですね。しかし本来は、こうした取り組みが「特別なこと」として語られなくなる社会が理想です。その日が来るまでの過程として、現状のさまざまな取り組みがあるのだと思います。

セミナー後、参加者からは次のような感想が寄せられました。
「考えすぎず、日常的な気遣いの中で接していくだけでも良いのだと理解できた」
「当事者の社員の話を聞くことで、より身近なこととして受け止めることができた」
「当事者は10%前後、佐藤さんや鈴木さんといった苗字の方と同じくらいの割合で存在するという話にハッとさせられた。言い出せない人がいるということは、当社にもまだまだ課題が残っていると感じた」
また、管理職の社員からは次のような声もありました。
「管理職としてどのような環境の提供やアプローチができるかアイデアを得られた」
「アライを表明するハードルの高さを感じていたので、率直なお話を聞けて安心した」
との声も寄せられ、誰もが働きやすい組織づくりに真摯に取り組もうとする姿勢が伺えました。
LGBTQ+フレンドリーな職場とは、特別な制度や取り組みが目立つ場所ではありません。誰もが余計な説明をせず、自分の役割に集中できる環境です。
福嶋氏と近藤の対話は、ダイバーシティを「施策」ではなく、経営や日常の前提として捉えることの重要性を静かに示していました。
サステナビリティ経営とは、こうした「当たり前」を一つひとつ積み重ねていくことでもあります。本セッションは、その出発点を改めて問いかける機会となりました