「選択的週休3日制」。その名のとおり、企業に勤務する方が、希望すれば週に3日間休める働き方です。2021年6月、政府は経済財政運営の基本方針となる「骨太の方針」を打ち出し、「選択的週休3日制の普及」を盛り込みました。
選択的週休3日制導入の背景には、少子高齢化にともなう労働人口減少問題があります。
女性、シニア、外国人など、さまざまな労働力を活用するには、柔軟な働き方ができる環境整備が必要。 労働日数を抑えることで、育児・介護・病気の治療などプライベートな事情を抱える方々が仕事との両立を実現でき、企業側は人材を確保できるメリットが期待できます。
すでに「選択的週休3日制」を導入している企業には、ファーストリテイリング、ヤフー、東芝、みずほフィナンシャルグループなどがあります。利用条件や給与形態は企業によってさまざまです。
「週休3日を選択した場合、基本給を8割程度に減らすとする企業も。そのため、制度導入の発表時には、「単なる給与削減策」「実質的なリストラではないか」といった声も上がりました。
「業務改善士」として、働き方改革・組織変革の支援、講演、執筆などを手がける沢渡あまね氏は、「人件費削減目的の週休3日制」に対し、否定的な見解を示しています。
「『週休3日以上にすれば給与を2割カットできる』――経営者にはそのような発想をしてほしくない。そうではなく、週5日働かなくても高利益を出して、働く人が十分な収入を得られるビジネスモデル変革に取り組む企業が増えてほしい」(沢渡氏)
そこで、沢渡氏に、週休3日でも生産性を高める方法について、実際の事例を踏まえて語っていただきました。
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選択的週休3日制…週休3日でも、コラボレーションを活性化させた取り組み
そもそも日本の働き方は、製造業の「製造現場」に最適化されたものです。週5日×8時間、同じ場所に集まって働く。そのスタイルに法制度や社会保障制度もアジャストされているため、多くの人がこのワークスタイルに縛り付けられている状態です。
製造現場では「週5日×8時間勤務」が合理的でも、すべての職種がそうであるとは限りません。職種ごとに最適な働き方を考える必要があります。会社単位ではなく、職種単位の最適解を追求してほしいと思います。
「週休3日」を実践して生産性を高めた企業の事例をご紹介しましょう。 日本マイクロソフトでは、「ワークライフチョイスチャレンジ2019夏」の取り組みにおいて、次の成果を得ました。この施策には「週勤4日週休3日制の実施」が含まれています。
●月あたりの就業日数25・4%減(2018年8月比)
●月あたりの印刷枚数58・7%減(2016年8月比)
●30分会議の実施比率46%増(2018年8月比)
●リモート会議実施比率21%増(2019年4~6月比)
●1日あたりのネットワーク数(人材交流)10%増(2018年8月比)
「ペーパーレス化」「リモートワークの活用」「1時間以上の会議から30分会議への移行」「積極的な人材交流」などによって、労働生産性が向上したのです。
就業日数が25%減っても、リモート会議の比率を高めた結果、従業員のコミュニケーションが10%も活性化しているのは注目したいところです。
別の企業の調査データでも、「コミュニケーションがリモートへ移行した結果、対話する人数が増えた」という結果が表れました。
リモートのほうが、対話の場に参加しやすいのは明らか。どんな場所にいても、スキマ時間を利用して「ちょっと参加」が可能です。
リモート会議の活用によって、さまざまな人が関わってくれる。これは想像以上に大きな価値をもたらします。活発で多様なコラボレーションによってイノベーションが起こりやすく、新しい視点でのビジネス展開や問題解決につながります。
また、メンバーが、「これだけ多くの人が関わっている」「こんなハイレベルの人ともコラボできている」といった感覚を持てれば、モチベーションや帰属意識にもプラスの影響を与えます。多様な人の知見に触れ、成長欲求も満たされます。
コラボレーションのハードルが低ければ、問題が起こったときも「誰かに助けてもらえる」「一緒に問題解決していく」などの感覚が自然になり、1人で抱え込まない。精神衛生上も健全で安心できる状態が保てます。
対面接触を避けるために広がったリモートワークですが、「コラボレーションの促進」を意識して活用したいものです。
働き方を「見える化」し、自分たちの「勝ちパターン」を発見する

日本マイクロソフトの取り組みに視点を戻しましょう。同社の成果は、自分たちの「勝ちパターン」を模索し続けてきた結果です。
今、多くの企業が「働き方改革」に取り組み、残業の削減、ペーパーレス化、リモートワークへの移行を進めています。そうした「部分改善」も大切ですが、より大きな視点で、時代や状況に即した「自分たちの勝ちパターンとは何か」を考える。これがもっとも重要です。
マイクロソフトでは自社システムを用いて、個人の行動・働き方、チーム全体の動きを分析しています。
例えば、次のようなデータを「見える化」しています。
「この一週間に働いた時間」
「何本のメールを出したのか」
「メール作成に使った時間」
「相手は誰なのか」
「そのメールはどのくらい開封されているのか」
「どの会議に、何時間参加したのか」
「社内での活動時間と社外での活動時間」
「その週に交流した人数や相手の属性」
「誰にも邪魔されない集中タイムがどれくらいあったのか」
こうしたデータをAIが分析し、個人やチームにフィードバック。行動特性や傾向の理解・気付きを促し、改善ポイントの発見を促すのです。
業務改善を進めていく上で「データ化」「見える化」は必要不可欠です。
営業部門でよく見られる光景を例にとってみましょう。
ベテランの上司は「営業は外回りをしてナンボだ」と言い、若い部下は「今はそんな時代じゃない」と反発する。お互いが感情論をぶつけ合い、飲み屋での愚痴レベルで議論が終わってしまう。
しかし、「社外での活動時間」「社内での活動時間」「SNSの使用頻度」「営業先とのオンライン対話の回数、時間」などさまざまなデータが明示され、営業成績や残業時間、成約までの工数と紐づけられた分析結果が出たらどうでしょう。
その企業・部署で働く営業パーソンの「効果的な仕事ぶり」、すなわち一つの勝ちパターンが見えてきます。
もちろん、すべての営業パーソンが同じパターンに当てはまるとは限りませんが、少なくとも、データによる「見える化」によって議論のテーブルにはのせられます。
「報・連・相」から「雑相」へ、コミュニケーションを転換する
日本マイクロソフトの取り組みの本質として「コラボレーションを本気で促す」が挙げられます。
コラボレーションはどのように生み出されるのでしょうか。
「報・連・相(報告・連絡・相談)」。
従来のマネジメントにおいては、これがコミュニケーションの基本とされてきました。
「報・連・相」は一見すると、下から上へのボトムアップコミュニケーションのように見えます。ところが、「報告の内容や仕方」「相談のタイミング」など、上の人が規定しているケースが目立ちます。「もっと事実を踏まえて報告しろ」「体裁を整えた資料を用意してくれ」「今は忙しいから後にしてくれ」など。
「報・連・相」は、統率型の組織での「決められた業務プロセス・手順に従えば答えを出せる仕事」においては、合理的なコミュニケーションと言えます。
しかし、近年、組織のあり方が変わってきています。従来のピラミッド型(統率型)ではなく、メンバー一人ひとりに裁量が与えられ、プロとプロとの信頼関係によって連携する「オープン型」「コラボレーション型」の組織形態をとる企業が増えてきています。こうした組織では「報・連・相」より「雑相」(ザッソウ)のコミュニケーションが威力を発揮します。
「雑相」とは、「全社員リモートワーク」を実施しているIT企業、ソニックガーデンの社長・倉貫義人氏によるコンセプトで、「雑談と相談」および「雑な相談」を意味します。
上司も部下も自由に雑談をして、ときにはその延長で「今、こんなことを考えているんですけど、どう思います?」などの相談に発展していく。 雑談の中で、お互いが「困っていること」「悩み」「考え方」「得意技」などを自己開示し、共有することでオープンな組織、コラボレーションしやすい文化が醸成されていきます。
そして、どこかかしこまった雰囲気が漂う「報・連・相」の相談とは異なり、「思いつきベースなんですが、ちょっと聞いてもらえますか」といった「雑な相談」ができる風土作りも大切です。
組織として、個人として求めているコミュニケーションに応じて最適なツールを選び、「雑相」を活性化させる。これがコラボレーションを活性化させ、より高い成果へとつながっていくのです。
――沢渡氏が指摘するように、選択的週休3日制を「コスト削減策」と捉えるのではなく「生産性アップの手段」として活用できれば、企業と働く方々がよりよい関係を築けると言えそうです。
※本稿は執筆者の個人的見解であり、ジェイエイシーリクルートメントの公式見解を示すものではありません。(2021年9月)
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