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静岡のグローバルニッチトップ企業・スター精密の挑戦 vol.1
非公開化を経て、新たな成長フェーズへ

スター精密株式会社

※このインタビューは2026年6月に実施しました。なお、所属・肩書は当時のものとなります。 佐藤誠悟氏
スター精密株式会社 取締役 専務執行役員 佐藤 誠悟 氏

工作機械事業・特機事業(小型プリンター)を手がけるスター精密株式会社。主軸移動型自動旋盤では世界トップクラスのシェアを誇り、グローバルニッチトップ企業として、幅広い産業のものづくりを支えています。年間休日135日や賞与の多さなどで「静岡を代表するホワイト企業」としても知られる存在です。

同社では2025年にTOBへの賛同を表明し、2026年3月に東証プライム市場上場廃止。この変革により、さらなる成長のフェーズに入りました。

今後の事業戦略と将来展望について、取締役 専務執行役員の佐藤誠悟氏、常務執行役員の増田文雄氏にインタビューを実施。2回に分けてお届けします。第1回となる本記事では、佐藤専務にスター精密の歩み、近年の取り組み、上場廃止の狙いについて伺いました。

創業期からの「グローバルニッチ戦略」で事業拡大。危機を乗り越え、次の成長へ

―― まずは創業からこれまでの歩みをお聞かせください。どのような戦略で成長してこられたのでしょうか。

創業は1950年です。戦後間もない時期、12坪のほったて小屋でわずか6人でのスタートでした。お金も人手もない中で、創業者たちは「なるべく人手がかからず、材料の仕入れが少なく、輸送費が安い事業をやろう」と考え、精密部品の加工業に着目したのです。時計のネジや巻き芯といったごく小さな部品の加工です。

当初、部品加工に使用する工作機械を外部から購入していましたが、「自分たちで作れるのではないか」と考えました。スイス製の機械を分解して図面を起こし、自社で製作をはじめたことが、現在の工作機械事業の原点です。1958年に工作機械事業へ参入、徐々に拡大して、当社の主力事業へと成長を遂げました。

当社の大きな特徴の一つが、創業間もないころから打ち出した「グローバルニッチ戦略」です。初めて工作機械をイギリスへ輸出したのは1962年、高度経済成長が始まったばかりの時期でした。当時の売上高はわずか2億円ほどで、周囲からは「海外展開は無理だ」と言われながらも挑戦したのです。

その後は高度経済成長の追い風を受けながら事業を拡大し、アメリカやヨーロッパに販売会社を設立、中国に工場を建設するなど、グローバル展開を加速させました。こうして成長を遂げ、1990年に東証一部へ上場しています。

しかし、バブルが崩壊し、以降は多くの日本企業と同様、厳しい時代を過ごしました。業績に波がありながらも生き残ってきましたが、リーマン・ショックの折には深刻な存続危機に直面しています。売上高約700億円に対して85億円の赤字を計上し、今では月600台ある工作機械の受注が9台まで落ち込む月もありました。

当時の事業は、工作機械・プリンター・携帯電話向け音響部品・精密部品の4つ。そこから選択と集中によって筋肉質な経営体制への転換を図った結果、存続させた工作機械事業とプリンター(特機)事業が成長をけん引し、現在は再び成長軌道に乗っています。

創業から現在に至るまで一貫して受け継がれているのは、「社員を大切にする」という考え方です。「企業は永遠に発展させるもの 従業員の生活はたゆまず向上するもの」――現在、企業理念として掲げているこの言葉は、私の祖父が創業したときからずっと言い続けてきた言葉なのです。会社が発展を続けて社会に貢献するのはもちろん、働く社員の生活も豊かにならなければならない、と。

「仕組み」と「文化」を変革し、新たなチャレンジに向かう

―― 実際、待遇・福利厚生面が手厚く、「ホワイト企業」として知られていますね。

年間休日135日は製造業でも非常に多い方です。賞与は直近5年平均で8.20カ月分と、日経の「主要企業のボーナス調査」のランキングで上位の常連となっています。残業も少なく、テレワークなど柔軟な働き方の制度も整えています。

理念の言葉にある「生活の向上」とは、給与などの経済的な豊かさだけを指すものではありません。自己実現や自己成長、仕事のやりがい、ワークライフバランスなど、一人ひとりの人生そのものを豊かにしたいという思いが込められています。それを大事にしながら経営を続けてきました。一方、社員にも会社への愛着や信頼感が醸成されていて、「会社とともに成長していこう」という文化が長年にわたって受け継がれていると感じています。

ただ、時代の変化に合わせて文化を変えていく必要もあります。私は2003年の入社以来、国内営業、アメリカ駐在を含む海外営業を経験し、営業部長を3年務めました。その後コーポレート部門に移り、2022年にコーポレート本部長に就任以降、ここ5年ほどは人事制度や組織文化の刷新にも取り組んできました。

実は当社は少し前まで、いわゆる「ワンマン経営」でした。2008年のリーマン・ショックで経営危機に陥って以来、当時社長であった私の父が生き残りをかけて効率化を徹底する施策を打ち出し、社員も頑張ってついていく時期が10~15年ほど続いたのです。ピンチを切り抜けるには、そうした強いリーダーシップが重要であり、実際に功を奏しました。

しかし、経営が安定して再び成長を目指すなら、ワンマン経営から脱却し、社員一人ひとりが自分で考えて判断して行動できる「自律型組織」にすることが重要だと考えました。自律型組織を実現するためには、まず社員が共有する哲学や価値観が必要です。それがないまま個々に判断すると、方向性がバラバラになりますから。

そこで、企業理念やパーパス、経営方針、行動指針をあらためて整理しました。そのうえで、社員が自ら考え、行動できる組織をつくるためには、「仕組み」と「文化」の両方を変える必要があります。仕組みとは、人事制度や目標管理制度、ガバナンスなどを指します。一方、文化には、心理的安全性やエンゲージメント、ダイバーシティ、挑戦を後押しする風土といった要素があります。こうした制度改革と企業文化の醸成を、ここ5年ほど並行して進めてきました。

これまで事業部ごとの個性が強く、バラバラになりがちだったので、文化を変える具体的な取り組みとして、年に一度、社員総会を開催するようになりました。その場では、行動指針を体現した社員を表彰しています。また、新本社のテラスに社員の家族を招いて地域の花火大会を楽しむイベントを実施するなど、さまざまな機会を設けています。

長期的な戦略と投資により、目の前のチャンスを確実につかんでいく

―― 2025年11月、米投資ファンドによるTOB(株式公開買付け)への賛同を表明され、2026年3月には東証プライム市場の上場を廃止し、新たな経営体制へ移行されました。この選択にはどのような狙いがあったのか、どのような未来像を描いているのかをお聞かせください。

目的を一言でいえば「さらに成長するため」。それには「経営の視点」と「スピード」を変える必要があると判断したからです。

当社の工作機械は「主軸移動型自動旋盤」と呼ばれる、高精度で小型の精密部品加工に適した機械です。日本では当社を含め3社がリードしている領域ですが、今後も大きな成長可能性が広がっています。実際、現段階で需要に対して供給が追い付いていない状況であり、この波に乗ってさらに事業を伸ばしていきたい。そのために長期的視点での戦略や投資も必要です。

しかし昨今の株式市場では「株主価値」を重視する傾向が強まっています。「物言う株主」といわれるアクティビスト投資家の存在感も増し、株主との対話を重視する経営が求められるようになってきました。株主の「短期目線」に合わせて3カ月ごとの決算数字に気をとられていては、長期視点での投資になかなか踏み切れません。目の前にある大きなチャンスをつかめなくなってしまう。これが上場廃止に踏み切った大きな理由の一つです。

非上場化によって感じている一番の変化は、経営の本質に集中できる環境が整ったことです。これまでは、本来の事業運営とは関係がなく、会社への貢献につながりにくい対応に、一定の意識と時間を割かなければなりませんでした。今は会社を良くすることだけに100%、自分の力を注げるようになった実感があります。

そしてもう一つの期待があります。当社の待遇や働き方は非常に「ホワイト」であるといえますが、1962年に売上2億円ながら海外に打って出たときのようなハングリー精神が失われていくことに危機感を抱いていました。新たな刺激を加えることで、挑戦に向かう精神を取り戻し、挑戦する文化を根付かせたいという思いもあるのです。

先ほども触れた、祖父の代から大切にしてきた「会社と社員がともに成長する」という考え方は、私自身の中にも刷り込まれています。それを体現した究極形は、大きな利益を得て社員に還元すること。つまり「日本トップクラスの報酬を払える会社」になることです。もちろん、ワークライフバランスや自己実現にも価値がありますが、社員の頑張りに報酬で応えたいと考えています。

「2030年に平均年収1000万円」という目標はすでに開示していますが、これは通過点に過ぎません。製造業における給与水準の高さでは、平均年収約2,000万円のキーエンスが知られていますが、それを超えることを目標としています。私たちの工作機械事業を伸ばしていけば、十分に到達可能な目標だと捉えています。

―― 応募・入社を検討されている方にメッセージをお願いします。

小型精密部品は、その時代ごとのイノベーションを支える技術に常に使われてきました。当社が手がけるのは、それらの部品を作るための機械です。かつては社内で「当社の機械がなければスペースシャトルは飛ばなかった」とも、自負をもって語られていました。

その後も、自動車、スマートフォン、医療、通信と、時代を象徴するさまざまな分野で当社の高精度な工作機械が活用されてきました。そして今、ロボットやドローン、AIの時代を迎えています。防衛や宇宙といった分野もこれから大きく伸びていく可能性があるでしょう。当社には、最先端のイノベーションを支えていく立場から、「次は何が来るのか」と、とてもワクワクできる環境があります。

そして、当社は今、「プライム企業が何の問題もないのにわざわざ非公開化し、企業価値の向上を目指す」という、少しクレイジーな変革期の真っただ中にあります。その中に身を置くことは、きっと大変楽しいですし、すばらしい経験を得られるでしょう。この挑戦に共感し、楽しんでくださる方と、ぜひ一緒に働きたいと思います。待遇・働き方はホワイトでありながらも、思いきり挑戦や成長ができる機会を、当社なら提供できます。

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