写真左から
- 株式会社日本サーチファンド 代表取締役 大槻 昌彦 氏
- 株式会社日本サーチファンド 専務執行役員 相馬 千太郎 氏
日本企業の9割以上を占める中小企業のうち、約127万社が後継者不在で、そのうちの多くが黒字にも関わらず将来的に廃業のリスクを抱えていると言われています。
特に地方で深刻な「後継者不足」という構造的課題に対し、新たな解決策として注目されているのが「サーチファンド」です。経営者を志す個人がファンドの支援を受けて中小企業を承継し、自ら経営者として事業を成長させるこの仕組みは、地方創生の鍵となる可能性を秘めています。
日本M&Aセンターグループのファンド事業中間持株会社である株式会社J-Capital100%出資の株式会社日本サーチファンド(J-Search)は、地域金融機関と連携した日本初の地域特化型サーチファンドとして全国5地域で展開しています。
人材不足に頭を抱える地域経済、その課題解決に直結するビジネスモデルとは――代表取締役の大槻昌彦氏、専務執行役員の相馬千太郎氏に、同社の挑戦と求める人物像について伺いました。
黒字廃業が相次ぐ日本に、「サーチファンド」という選択肢
―― まず、現在の日本の事業承継・後継者不在問題について教えてください。
大槻:中小企業における後継者問題は年々深刻さを増しています。人口減少と少子高齢化という構造的な背景のもと、後継者不在企業の割合は依然として5割を下回りません。特に深刻なのは地方です。首都圏でももちろん課題はありますが、地方は人口の母数が小さい分、問題がより重くのしかかっています。今後毎年何万社も黒字企業が廃業していきかねないなか、当社グループは1社でも多くの企業をM&Aを通じて存続・発展させていきたいと考えています。
―― では、サーチファンドが日本の事業承継問題に果たす役割と可能性をどう捉えていますか。
大槻:サーチファンドは、「第二創業」の仕組みだと考えています。経営者を目指す個人(サーチャー)がファンドの支援を受けながら、承継先の企業を探し、M&Aを活用して承継します。そして、前のオーナーが築き上げてきた会社に新たな経営者としてサーチャーが入って、さらに発展させていく。単なる承継ではなく、まさに「第二創業」です。オーナーにとっては、事業会社が買収する第三者承継とは異なる、個人から個人への引き継ぎを実現できます。
サーチファンドの仕組み
サーチファンドであれば、「1対1」での引継ぎをすることができる。「この人なら」と思える相手に、自社の歴史や文化、思いそのままの形で会社を譲ることができるのです。オーナー経営者にとっても魅力的な新しい選択肢になります。事業承継の選択肢が増えること、それ自体が結果として地方創生にもつながると考えています。
相馬:サーチファンドであれば、ほかにも事業会社同士のM&Aの課題を解決できます。例えば本業のほかにサイドビジネスを手掛けているケースでは、事業会社が買い手の場合、条件が折り合わないことが多々あります。
オーナーは事業をすべて引き継ぎたいけれども、事業会社は特定の事業しか欲しがらない、そういったことはよくあります。しかし、サーチファンドであれば、オーナーの想いを受け止め、理解したうえですべての事業を承継します。将来的にMBO(経営陣による買収)などを経て中長期的に事業を保有してもらえる可能性が高い点もオーナーにとっての安心感に繋がっています。
大槻:サーチファンドでは、トップ面談で「私が経営します」と自己紹介をしたサーチャー本人が、そのまま経営の現場に入ります。このことが実は非常に大きい。
通常の事業会社とのM&Aでは、トップ面談で会っていた買い手社長と、買収後に実際に現場へ送り込まれる人物が異なることが珍しくありません。そのため、譲渡オーナーからすると、「面談して惚れ込んだ社長ではなかった」というミスマッチが生じやすいのです。譲渡オーナーの信頼や安心感は、PMI(M&A後の統合作業)をスムーズに進める上でとても重要です。
地銀と連携し全国へ──「成約から成長へ」が導いた地域特化モデル
―― 日本サーチファンド(J-Search)の特徴について教えてください。
大槻:当社は日本M&Aセンターグループの一員であり、グループの思想と文化が色濃く反映されているファンドです。地方や中小企業への強い思いとこだわりが最大の特徴です。
国内に存在するサーチファンドの多くは、首都圏や都市部への投資が中心です。一方、J-Searchは設立当初から地域特化型を打ち出している点が大きく異なります。2027年度には全国10エリアでファンドを立ち上げ、総額100億円規模のファンドを運営し、業界をリードしていきます。これまでに、北海道、北陸、東海、四国、南九州の5エリアでファンドを設立しました (取材時点)。各ファンド10億円規模で、それぞれ地域に根ざした地域金融機関と当社が共同出資しています。
サーチャー支援の面でも、ソーシング・教育などに特長があります。サーチャーは自ら承継したい先の企業を探し、オーナー経営者に会っていく活動をしていただきます。このソーシングの段階で、日本M&Aセンターグループが全国のネットワークを通じて集めた、既に譲渡意思のある、豊富なM&A案件の情報を利用できることが非常に有利です。
また、サーチャーへの教育においても、業歴35年のリーディングカンパニーである日本M&Aセンターグループの強みを生かしています。譲渡オーナーへの接し方や気遣いから、M&Aの実行に関する知識やスキルまで、あらゆることをノウハウとして提供できます。その中には、グループ会社の日本投資ファンド(J-FUN)の投資案件をケーススタディとして用いた事業計画づくりや、投資先のバリューアップフェーズへの参加など、経営経験を補う、より実践的な研修の機会も用意しています。
―― 日本M&Aセンターグループとして、なぜ今サーチファンドに取り組むのでしょうか。
大槻:私が日本M&Aセンターに入社した2006年当時、中小企業のM&Aマーケットはまだまだ黎明期でした。「まず1件でも多く成約させよう」というフェーズが20年続き、いまや上場企業などであればM&Aをやらないと表明すると株価が下がるとさえいわれるほど、M&Aが一般化した時代になりました。
これだけM&Aが一般的になった今、我々は改めて「M&Aの本当の役割」に正面から向き合っています。M&Aはあくまで企業成長の手段であって、ゴールではない。だからこそ、業界のリーディングカンパニーとして、当社は「成約から成長へ」という次のフェーズに進もうとしています。廃業や清算によって失われうる日本企業の経済・文化的なすばらしい価値を、エクイティの力で取り戻し、将来のプラスの成長力に変えていく。これが当社のファンドビジネスの根底にある思想です。
サーチファンドはアメリカで生まれた「起業の手段」です。アメリカ発の金融・M&Aトレンドは、必ず日本に来て、首都圏から地方へと展開・普及していく歴史をたどってきました。サーチファンドも例外ではないと考えています。
ゼロから1にするのがベンチャー起業であるならば、サーチファンドは1を10にする起業であり、「第二創業」へのチャレンジです。サーチファンドはいずれ地方にも広がっていきます。J-Searchでは、それぞれの地域経済を支える地域金融機関と組み、地域特化型でサーチャーをしっかりと支援することで、起業の勝率を上げていく仕組みを作ろうとしています。
もう一つ大事な視点として、ギャップを埋めるという狙いがあります。地方の企業は「サーチャーとして本当に来てくれる人がいるのだろうか」と半信半疑に思っていて、都市部にいるサーチャー人材は、「地方に貢献したいけれど、受け入れてくれるのだろうか」と思っている。地方企業と都会の人材、の両者のギャップを埋めるのが、J-Searchの存在意義だと思っています。
また、企業成長を成し遂げるには「経営力」「ガバナンス」「人材」という3つの領域でギャップを埋める必要があると考えており、それぞれの課題に対応するファンド事業を展開しています。経営力の課題は主力ファンドである日本投資ファンド(J-FUN)を中核としたPEファンドが、クロスボーダーM&Aにおけるガバナンスの課題はAtoG Capitalが担います。そして人材の問題こそがJ-Searchの担う領域です。地方と中央の間に残る大きなギャップを、優秀な第二創業人材の輩出によって埋め、地方創生を実現していく。このビジョンが、当社グループが今サーチファンドを推進する原動力です。
構想力だけでなく実行力──現場に入り込み、信頼を築ける人が求められる
―― サーチャーとして経営者になるまでの流れを教えてください。
相馬:サーチャーが経営者になるまでには大きく3つのフェーズがあります。承継先を探す「サーチ」、買収を実行する「エグゼキューション」、そして経営に参画するフェーズです。
サーチのフェーズで最も大切なのは、サーチャー自身の能動性です。ご自身がどのような会社を承継したいのかについて明確な意思をもち、自分のキャリアで何が生かせるのか、どのような事業をやりたいのかを言語化していただく必要があります。当社からも案件情報をご提供しますが、自らも企業を探したり、限られた情報からでも仮説を立てて検討できる方でないとソーシングは進みません。1回のサイクルで案件が決まることはまずなく、PDCAを回し続けられる方がいい案件に到達しやすい傾向にあります。
エグゼキューションのフェーズでは、サーチャーご自身に事業計画を作成し、譲渡オーナーとのトップ面談などを進めていただきます。会社の歴史・文化を引き継げるか、ご自身が経営に入ってきちんとワークするかを見極める期間でもあります。成約に向けたデューデリジェンスや契約交渉は当社がバックアップします。そして、承継の後はPMIをしっかり進めながら、経営者として事業を率いていただきます。サーチ開始から成約までは1年以上かかるケースが多く、ある程度腰を据えた活動を想定していただきたいと考えています。
―― どのような人がサーチャーとして向いているか、求められる人物像を教えてください。
相馬:実は職種や学歴よりも、ビジネスパーソンとしての属性が重要なのではないかと考えています。例えば、コンサルティング会社出身の方は事業計画の設計力に強みがあり、フィットする方も多くいらっしゃいます。しかし、飛び込む現場は地方の中小企業。評論家的な姿勢では成果は出せません。コンサルから経営者へと覚悟を決めて踏み出せるかが分岐点になります。
就任後、経営者に求められるのは、トップラインを伸ばす力です。売り上げ数億円規模の会社では、コストカットのインパクトは限られます。それよりも、新規案件を取ってきて売り上げを10%でも伸ばせる方が貢献度は圧倒的に大きい。自ら顧客を開拓するトップ営業や、新規事業を立ち上げてこられた経験などが、実際に経営者となったときに大きなアドバンテージになります。
大槻:絵を描く人と、実際にやる人とでは結果が全く違います。J-Searchがターゲットとする売り上げ数億円規模の中小企業においては、自らが意思決定して自ら手を動かすことが極めて重要です。私たちがサーチャー候補の方たちとお会いする際に重視しているのは、経営に対するオーナーシップと、ピンチや逆境を乗り越える力ですね。中小企業の経営の現場は、毎日が経験したことのないチャレンジの連続になると思います。
それからコミュニケーションスキルも欠かせません。サーチャー自身が、従業員の中に入り込み、彼らと日々接しながら企業を前進させていかなくてはなりません。重要なのは、価値観の差を理解したうえで、その差を越えていける力です。どんなに頭のいい方でも、いきなり戦略やKPIを語ったら、従業員たちは付いてきてくれません。まずは「これからお世話になります」と酒を酌み交わすところから入っていく。そんな風に、価値観のギャップを乗り越えて一緒に働く仲間を築いていく経験を、これまでの仕事のなかで積んできたかが問われます。ハイスペックなクールヘッド型ではなく、ウォームハートで現場に飛び込めるタイプの人が向いていると思いますね。
―― 選考プロセスはどのように進むのでしょうか。
相馬:まずはカジュアル面談から始まります。サーチファンドの動き方はまだ広く理解されているものではないので、最初は仕組みを丁寧にお伝えする段階です。その後、面接を重ねていきますが、当社が特に重視しているのが「志」と「レジリエンス」です。地域特化型サーチファンドという性質上、その地域と会社にどれだけコミットしてくださる方かは、投資させていただく我々はもちろん、譲渡オーナーからも厳しく見られます。なぜ経営者になりたいのか、なぜ自分がその地域・産業の企業を承継したいのかが腹落ちしていることが、困難な局面で折れない拠り所にもなります。
実際にサーチ活動を始められる段階になったら、「兼業サーチャー」として副業的にトライアル参加いただくフェーズを用意しています。現業を急にやめてサーチャーに転じるのはご本人にとっても大きなリスクです。兼業サーチャーとしての活動のなかで実際にトップ面談へ同席いただき、ご自身も「やれる」と感じ、当社側も「お任せできる」と確信した段階で、専任サーチャーへと進んでいただく流れです。
サーチャーは起業家──転職ではなく「第二創業」という挑戦の価値
―― 最後に、サーチファンドに興味をもち始めた方へメッセージをお願いします。
大槻:サーチャーはプロ経営者ではなく、「起業家」です。初年度から数千万円の多額の報酬を保証されているような世界ではありません。給与は当然支払われますが、自らも出資して「オーナーシップをもって経営する」というスタイルだと理解いただく必要があります。一方で、ストックオプションを数%といった水準ではなく経営の成果にしっかりと連動する規模で付与する設計にしていますので、EXIT時には大きなキャピタルゲインを得られる可能性があります。
そのうえで、当社に来ていただきたいのは、中小企業が好きで、地方が好きで、経営やトップ営業をやりたいという熱い思いをもった方です。サーチャーの多くは経営未経験からの挑戦ですから、J-Searchがしっかりサポートします。まずは思いの強さで飛び込んできていただきたいですね。
相馬:サーチファンドは大きなポテンシャルを秘めたビジネスモデルですが、個人レベルでは不確実性のなかでチャレンジを続けるタフさが必要です。だからこそ、単なる転職ではなく「新しいことに飛び込み、自ら事業をドライブしたい」という野心をもった方にチャレンジしていただきたい。地方は、中小企業は、そうした起業家マインドと積極性ある未来の経営者を待っています。私たち日本サーチファンド(J-Search)とともに叶える「第二創業」に少しでもご関心をもっていただきましたら、ぜひ気軽にご応募ください。
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