DX事業推進ポイント

ロボットがサービス化する「RaaS」のインパクト

Pocket

さまざまな場面でロボット化が進むなかで、近年よく聞かれるようになったのが「RaaS(Robot as a Service)」と呼ばれるビジネスモデルだ。RaaSはロボットと、それを制御するシステムを外部サービスとして利用する仕組みだ。必要な期間・台数だけのロボットを手頃な価格で導入できるRaaSは大企業だけでなく、中小企業からも注目を集めている。

労働集約型の業界にとっては人材不足を解消し、技術力が求められる業界では後継者不足を解消する武器となりうるだけに注目度も非常に高い。そこで今回はRaaSが台頭する理由から、具体的な事例、今後の見通しについて解説したい。

RaaSが台頭する理由

RaaSは自動化・ロボット化が必要な機能だけを切り出して、月額課金などミニマムな契約期間で導入できる利点がある。リース契約と異なり、利用時間に応じて課金されるので費用対効果も高い。また、仕事量の増減に応じてロボットを追加できるといった柔軟な運用ができ、ロボットの操作や不具合修正をリモートで対応するベンダーも存在する。
従来あったような高額な初期投資や社員のトレーニングに時間を費やすといった手間も無くなり、常に最新モデルが低価格で利用できることがRaaSが新しいロボットの利活用モデルとして注目されている理由だ。

RaaSのビジネスモデルを支えるのはIoTによるロボット運用だ。ロボットの操作や使用状況のモニタリング、ソフトウェアのアップデートやデータ分析などを、インターネットを介して行う。

オートメーション化が求められる作業の要件は4つのD、つまりdirty(汚い)、difficult(難しい)、dangerous(危険)、dull(退屈)とされている。特に新型コロナウイルス以降において感染リスクを排除したオペレーションの需要は非常に高い。

コロナ禍以前は人間とロボットが一つの現場で同じ作業を行ったり、作業分担をしたりするという協働型のモデルにフォーカスが当たっていたが、コロナ禍以降の人間の役割はロボットの遠隔操縦に特化する流れが加速していくことが予想される。普及が見込まれる5G通信は遠隔操作の課題とされていたレイテンシー(遅延)の解消を後押しするだろう。

またオペレーターが一度操作した動きをAIが学習し、2回目以降はロボットが自律して行うロボットも実際にサービスインしている。こうした高性能なロボットの運用でも莫大な初期投資を必要としないRaaSの浸透は不可逆的に進むだろう。

国内外で進むRaaS事例

では、実際にRaaSは、どういった現場で活用されているのだろうか。サービスを提供するベンダーは創業10年以内のスタートアップが多い。そこでロボット系スタートアップを軸に国内外のRaaS事例を紹介したい。

空港×モビリティ
デザイン性の高いパーソナルモビリティを開発しているWHILL(神奈川県横浜市)は2020年6月から羽田空港第1ターミナルで自動運転サービスを提供している。

https://www.youtube.com/watch?v=NQZLb9sAmrY

あらかじめ収集した地図情報と、センサー群で検知した周囲の状況を照らし合わせ、自動走行および自動運転による無人返却に対応している。空港のような広大な公共空間では高齢者や歩行困難者向けの移動サービスを提供することが珍しくない。
しかし、新型コロナウイルス以降、ドライバーと利用者間の感染リスクが懸念されていた。WHILLが提供する自動運転サービスは感染リスクを回避しながら、移動支援サービスを安定的に提供できる。

ビルメンテナンス×ロボットアーム
WHILLのように公共空間でのロボット活用は最もホットなテーマだ。ミラロボティクス(神奈川県川崎市)が開発する「ugo」は、オペレーターがロボットを遠隔操作し、2本のアームを利用して警備や清掃業務を行う。
現在は大手ビルメンテナンス会社と提携し、人手不足に陥っているビルの管理業務を支援している。オペレーターが操作した情報はAIに学習させることで、自動で作業を運用することも可能になる。

 

ドアノブを紫外線で消毒するugo(出典:ミラロボティクスのプレスリリースより)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000034305.html

「ugo」は発表当初は一般家庭で家事をサポートするロボットとして開発されたが、個々の家庭で環境が大きく異なる個人空間と比べて、ビルのような公共空間は障害物が少なく、エレベーターやトイレなども規格化されたもので構成されているので、ロボットとしては運用しやすい環境にあると言える。

農地×作業ロボット
公共空間以外でもロボットが活躍できるフィールドは多い。その一つが農業だ。
農家が利用する機械は田植え機や収穫機、コンベアーなど農家が自ら操作する機械が多い。また導入コストも高額になるので、農家が高額なローンを組むか、何軒かの農家で共同購入するケースが大半だ。そのため、予算に余裕のない小規模な農家は機械が導入できず、多くの作業を人手でカバーせざるをえない。

inaho(神奈川県鎌倉市)は、カメラによる画像認識で農作物の生育状況を認識し、一定のサイズになった作物のみロボットアームで収穫するロボットを開発している。

https://www.youtube.com/watch?v=xSjU_SrSBp0

現在はアスパラガスの収穫のみに対応しているが、今後はきゅうりやナス、いちごなどもサポートする予定だ。inahoのRaaSは「農家ファースト」な価格設定が特徴だ。通常、ロボットの利用料は「台数×稼働時間・日数」で設定されるケースが多い。
それに対して、inahoでは市場価格を参考に「収穫高×一定の割合」で利用料を請求する仕組みだ。収穫量に応じた価格体系なので、農家としては機械の利用料が経営を圧迫することがない。収穫高が増えれば増えるほど農家もベンダーも利益が上る仕組みだ。

中国ではRaaSユニコーンも誕生している

創業10年以内で評価額が10億ドルを超える非上場のテクノロジー企業をユニコーンと呼ぶ。日本ではAIベンダーのプリファード・ネットワークス(東京都千代田区)、プラスチックの代替素材を開発しているTBM(東京都中央区)、ニュース配信アプリのスマートニュース(東京都渋谷区)が該当する。

近年あらゆる業種で世界を席巻している中国でも、2019年時点で80社以上のユニコーン企業が存在する(CBInsights調べ)。その中でもロボット業界で急成長しているのがUBTECH Robotics(中国・深セン)だ。
2012年に創業し、家庭用のコミュニケーションロボットがブレイクしたのを皮切りにオフィスや工場を巡回する警備ロボットや、商業施設やホテルで顧客をサポートするロボットを開発、国内だけでなく海外にも売り込んでいる。創業10年以内で平均年齢30歳でありながら、従業員数は深センだけで2000名、時価総額は94億ドルと大企業と遜色ない規模にまで成長している。

UBTECHが開発する警備用ロボット「EMBOT」。複数のカメラやセンサーでモニタリングする。(UBTECH Robotics本社で筆者が撮影)

UBTECHが狙うのは人間だけではカバーできないような広大な施設を持つ業界だ。工場やプラント施設、データセンターを24時間巡回するだけでなく、温度センサーやカメラなどを使い、AIが異常を判断すれば中央の管理室に通知するなど付加価値の高いRaaSサービスを提供できると自負している。

ロボットによるDX発展の鍵は「育てること」

世界各国で優れたロボットスタートアップが生まれ、既存企業によるRaaS事例が増えつつある。しかしRaaS発展の鍵はスタートアップだけとは限らない。
むしろロボットが活躍できる環境や課題を持った既存の企業が、どれだけ真剣にDXに向き合うかが鍵だと言える。

どれだけ優れたロボットができたとしても、社会で機能させるためには現場でのテストやデータ収集などの「育成期間」が欠かせない。そのためには大企業が持つ事業や施設といったアセットを活用して、PoC(Proof of Concept:コンセプト検証)や現場での実証実験を重ねることが重要だ。
グローバルで見てもRaaSは黎明期であり、普及が見込まれながらも導入されていないシチュエーションは未だ多い。それはファースト・ペンギンになれるチャンスが多数存在しているということでもある。

越智 岳人

ライター:越智 岳人

編集者・ジャーナリスト
現在はフリーランスとして技術・ビジネス系メディアで取材活動を続けるほか、ハードウェア・スタートアップを支援する事業者向けのマーケティング・コンサルティングや、企業・地方自治体などの新規事業開発やオープン・イノベーション支援に携わっている。