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- 友岡 賢二氏
- フジテック株式会社
専務執行役員 デジタルイノベーション本部長(CIO/CDO)
友岡 賢二氏 -
早稲田大学商学部を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社。
独英米に計12年間駐在。ファーストリテイリング業務情報システム部部長を経て2014年、フジテック情報システム部長として入社。
2019年、従来の情報システム開発に加えてR&D機能とプロセスエンジニアリング機能を併せもつ「デジタルイノベーション本部」に改組。CIOとして全社のDXをリード。エレベータの状態監視をリモートで行う遠隔監視システムの推進などに取り組む。
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- 澤 円氏
- JAC Digitalアドバイザー
株式会社圓窓 代表取締役
澤 円氏 -
元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフト株式会社へ。ITコンサルタントやプリセールスエンジニアとしてキャリアを積んだのち、2006年にマネジメントに職掌転換。幅広いテクノロジー領域の啓蒙活動を行うのと並行して、サイバー犯罪対応チームの日本サテライト責任者を兼任。2020年8月末に退社。2019年10月10日より、(株)圓窓 代表取締役就任。2021年4月22日よりJAC Digitalアドバイザー就任。
現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。美容業界やファッション業界、自動車業界の第一人者たちとのコラボも、業界の枠を超えて積極的に行っている。テレビ・ラジオ等の出演多数。Voicyパーソナリティ。武蔵野大学専任教員。
ウェビナー開催レポート
「武闘派CIOが率いるフジテックのDX戦略」~変革を生み出すエンジニア組織のリアル~
フジテック株式会社
エレベータ・エスカレータのグローバルメーカーであるフジテックは、“武闘派CIO”と呼ばれる友岡氏のもと、経営陣や情報システム部門の意識改革を行い、クラウドシフト、内製化、デジタルツインなど先進的な取り組みを進めています。
そこで今回のセミナーでは、フジテック株式会社 専務執行役員 デジタルイノベーション本部長(CIO/CDO)友岡 賢二氏をゲストに迎え、JAC Digitalアドバイザー澤 円氏がフジテックのDXの舞台裏、そして友岡氏がどのようにエンジニア組織をけん引し、変革を実現してきたのかを紐解きます。
*本記事は2025年5月にJAC Digitalが開催したオンラインイベントを一部抜粋、再構成したものです。また、文章表現を統一するため言い回しも変更しておりますのでご留意ください。
<登壇者・登壇企業紹介>
1. フジテックのDX戦略「デジタルツイン」の推進と実践方法
澤氏:フジテックでは、「DX推進」というキーワードに対してどのように向き合い、何をもって推進しているとお考えでしょうか。
友岡氏:当社に限らず、DX戦略を策定する際に重要となるのは、企業が提供している本質的な価値を深く考えることです。
安易に「儲けたい」といった付加価値を追求するのではなく、お客さまがなぜ対価を支払って当社のサービスを選んでくださるのかを真剣に考える必要があります。
エレベータやエスカレータといった商品は、日用品とは異なり、一度導入すると20年近く使用されます。「気に入らなければ買い替える」というような商品ではありません。お客さまが選択する機会が少ないからこそ、当社が提供する本質的な価値を突き詰めて考えることが重要です。
澤氏:御社が提供する本質的な価値をどのように捉え、DX戦略の実現につなげていらっしゃるのでしょうか。
友岡氏:本質的な価値を見極めるためには、お客さまの行動や商品の使われ方などを徹底的に観察することが不可欠です。そこから見えてくる課題やニーズこそが、DXで解決するうえで真のポイントとなります。
また、事業戦略を実現するための手段としてDXが存在するという考え方も重要です。多様なデジタル技術があるなかで、すべてを網羅しようとするとリソースが分散してしまいます。
当社では、「安全・安心」という本質的な価値向上に資するデジタル戦略に注力することで、限りあるリソースを最大限に活用し、事業目標の達成を目指しています。
ただ、DXの怖いところは、異業種のプレイヤーが参入し、既存の事業領域を奪ってしまう可能性がある点です。
当社が「安全・安心」に特化するのは、この本質的な価値をデジタルで強固にすることで、他社に容易に模倣されない競争優位性を確立するためです。
あらゆる要望に応えるのではなく、核となる価値に焦点を当てることで、効率的かつ効果的なDX推進を実現しています。
澤氏:友岡さんが、普段から工場など現場に足を運ぶことを重視されているのはなぜでしょうか。
友岡氏:事業会社のIT部門にとって、現場を知ることは非常に重要だと考えているからです。
現場に実際に足を運び、そこで働く人々と直接触れ合うことで、多くの新しい発見や気づきが生まれます。会議室で話を聞くだけでは得られない情報があり、それがイノベーションにつながることも多いですね。
例えば、私が入社して間もないころ、エレベータの設置現場へ同行させてもらったときのことです。現場に車で向かう社員が、社内システムから印刷された紙の地図と、自身のスマートフォンで検索したGoogleマップを同時に見比べながら運転前の行き先確認している光景を目にした際、これは何とかしなければならないと直感しました。
現場の人は、その紙の地図とGoogleマップを行き来している習慣的な行動が非効率だとは気づいていませんでした。現場を観察することで、当事者では気づかないような潜在的な課題や改善点を発見できます。
この課題の解決策として考えたのは、社内システムとGoogleマップの連携です。当社の基幹システムにある現場情報をGoogleマップ上に統合することで、地図を見ながら検索する手間をなくし、よりスムーズな移動を実現できます。
これは「n=1」の小さなエピソードかもしれません。でも実際に困っている人がいるという確かなエビデンスとなります。現場での観察を通じて得られた具体的な課題から、真に価値のあるDX戦略が生まれると考えています。
澤氏:現場の「観察」が、DX戦略の方向性を決めるうえで大きく役立ったということですね。
友岡氏:会議室でヒアリングしても、現場からはIT部門に「こうすれば良くなるに違いない」という現場の方のフィルターを通した要望しか出てきません。例えば、「複数ある画面を一つにまとめたい」といった要望が出てきたとして、それをやり続けて本当に経営全体の生産性向上につながるかは別問題です。
しかし、現場を観察することで、「なぜ紙の地図とGoogleマップを見ているのか」「なぜこの人は紙を持って倉庫を走っているのか」といった疑問が生まれ、本質的な課題への発見とつながります。
これらを解決することこそが、DXで目指すうえでの大きなアジェンダとなり、当社が掲げる「安全・安心」という旗印のもとに、ヒト・モノ・カネをどこに集中させるという判断基準となります。

2. デジタルの側面での製造業のおもしろさ
澤氏:DX推進において、デジタルへの興味だけでは長く続かないとお考えとのことですが、興味以外にどのような要素が必要なのでしょうか?
友岡氏:当社の場合、商品である「昇降機」や、お客さまに「安全・安心」を届けることへの情熱やロマンを感じられるかどうかを重視しています。
ユニクロでの経験からも、長く続く人はアパレルが好きな人です。事業会社で働くうえで、自社の商品やサービスに対する愛情や、提供する価値への共感がなければ、困難に直面した際に乗り越えるのが難しいと考えております。
特に製造業は、モノを扱うという点で非常にプロセスが複雑ですが、それがおもしろさでもあります。例えば、昇降機の材料仕入れから加工、完成、そしてお客さまへのお届けまで、ものづくりの全工程に関われるのは、ITコンサルタントや社内SE経験者にとっても大きな魅力です。
澤氏:昇降機ビジネスが、ITコンサルタントや社内SE経験者にとって魅力的だとお考えの理由は何でしょうか?
友岡氏:昇降機ビジネスは、一度販売したら終わりではなく、お客さまと長くつながり続ける継続的なサービス提供が特徴です。
さらに、IoTやAIといった最先端のデジタル技術をふんだんに活用できる点が大きな魅力です。
例えば、ビッグデータを解析して故障の予兆を察知し、事前に部品交換を行うことで、サービスの質を向上させることができます。その結果、今のトレンドとなるITを実践的に活用できるため、好奇心旺盛なエンジニアの方にとって、非常に魅力的なフィールドだと考えております。

3. チャレンジを評価するフジテック
澤氏:フジテックでは、チャレンジを評価するような評価指標があるとうかがいました。その点について詳しく教えていただけますでしょうか。
友岡氏:私の中では「失敗」という概念はありません。あくまでもトライだと考えています。新しい試みは、成功よりも失敗する確率が高いものです。
しかし、失敗を恐れてチャレンジしないのではなく、積極的に挑戦してほしいと考えています。そのため、たとえすぐに成果が出なくても、失敗が評価を下げることのないような評価制度を部門として導入しています。
一般的な業務をこなすよりも、新しいことに挑戦して失敗した場合の方が、むしろ高く評価されるような仕組みにしています。
澤氏:失敗しても評価が下がらないというのは、非常に画期的な制度だと感じます。この評価制度を導入された背景には、どのような意図があるのでしょうか。
友岡氏:この評価制度は、社員が失敗を恐れずに未知の領域に挑戦できる環境を創出するために設計されました。新しいことを試みる際、「失敗したら評価が下がるのではないか」という懸念は、チャレンジを阻害する大きな要因となります。
私たちは、失敗から学び、次の成功へとつなげていくことを重視しています。そのため、挑戦すること自体を評価し、たとえ一度でうまくいかなくても、それが「トライ」である限り、ポジティブに捉える文化を醸成したいと考えています。
もちろん、失敗を奨励しているわけではありませんが、できるだけ早く成功体験を積んでもらうことの方が重要です。
そのため、チャレンジングなプロジェクトには、その領域に適した方をアサインするよう心がけています。一人ひとりの強みや専門性を活かし、成功確率を高めるためのサポートを惜しみません。
社員が安心して挑戦できる環境を整備することで、組織全体のイノベーションを加速させていきたいと考えております。
4. 情報システム部門の在り方
澤氏:生成AIの登場は、すでに人事制度や組織構造にも変化をもたらしているのでしょうか?
友岡氏:はい、生成AIのインパクトは非常に大きいですね。特に大企業の情報システムにおいては、二つの大きな可能性を感じています。
一つは、COBOLなどの古いレガシーシステムをモダン化する際に生成AIが大きく貢献することです。 異なる世代の技術を理解できるエンジニアは限られているため、生成AIが技術のギャップを埋める役割を果たしています。
二つ目は、今まで扱えなかったPDF文書のような非定型情報に生成AIがアクセスできるようになることです。これにより、情報システムのカバレッジが格段に広がり、大きな変化が起こると考えています。
澤氏:生成AIが非定型情報にアクセスできるようになることで、具体的にどのような変化が期待できるのでしょうか?
友岡氏:情報システム部門はこれまで、リレーショナルデータベースのような正規化された情報しか扱えませんでした。
しかし、生成AIの登場により、何百ページもあるPDFマニュアルや手順書といった非定型情報も扱えるようになりました。
実際、企業が保有する情報の約8割が非定型情報といわれています。この非定型情報に生成AIがエージェントとしてアクセスできるようになることで、企業内での情報活用の幅が飛躍的に広がります。
ここからの10年は、正規化された情報と非定型情報を融合したシステムを構築していく必要があり、これは非常にやりがいがある反面、大きな挑戦となると感じています。
ただ問題なのは、多くの情報システム部門が、生成AIのような新しいテクノロジーに対して「セキュリティは大丈夫か」「社内情報を預けてもよいのか」といった初期段階の議論にとどまってしまい、導入が遅れている点です。
現状、情報システム部門が新しいイノベーションの波を止める「防波堤」のようになる可能性もあります。しかし、本来は私たち情報システム部門こそが、その波を起こす側になるべく、積極的に新しい技術を採り入れ、ビジネスに貢献していく姿勢が必要です。
5. 質疑応答
Q. DXを進める際の実体験で、発生、または発生しているボトルネックとその解決策もしくは解決案について教えてください。
A. 友岡氏:DX推進におけるボトルネックは、多くの場合、私たちに与えられた「与件(定数)」であると認識しています。それぞれの企業には固有の条件があり、それを議論しても解決にはつながりません。
重要なのは、自分で変化を起こせる「変数」に注目することです。つまり、できない理由を探すのではなく、与えられた条件下で最もスケールできる方法、そして自分の責任範囲でできることに集中します。
ボトルネックを前提事項と捉え、まずはできることから着手し、小さな成功を積み重ねることで、次のステップへとつなげていくことが解決につながります。
Q.製造現場が保守的な立場が多いなかでDXに着手していくには、どこから手をつけるのがよいですか?
A. 友岡氏:製造現場は、品質維持や安全確保のために保守的であるのは当然です。しかし、DXを進めるうえでどこから手をつけるべきかといえば、まずは「観察」だと考えています。
具体的には、全体のスループットを把握することが重要です。製造現場の一部だけを改善しても、全体の生産性が向上しなければ意味がありません。
お客さまへ提供する価値の源泉がどこにあるのかを見極め、その源泉を強化するためにITやデジタルで何ができるかを考える必要があります。
単に現場を眺めるだけでなく、お客さま視点での価値創造につながるポイントを見つけることが、DX着手の第一歩となります。
この記事の筆者
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