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年功序列?失敗は許されない?日系大手グループ2社が語る、挑戦の実態

イオン株式会社 × KINTOテクノロジーズ株式会社 × JAC Recruitment

イベントレポート

日本では2018年ごろから大企業を中心にDXへの対応が始まり、DX推進に携わるスタッフの採用は急速に拡大し続けています。

ただ、特に日系大手企業は大きな基盤を生かしたチャレンジが魅力的なものの、大きな組織を抱える中でどのようにDXを推進しているのか?どのようなカルチャーなのか? など気になる方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は大手流通グループであるイオン株式会社 CTO 兼 イオンスマートテクノロジー株式会社 CTO 山﨑 賢氏と大手自動車グループであるトヨタグループのテクノロジーをリードするKINTOテクノロジーズ株式会社 取締役副社長 景山 均氏にご登壇いただき、JAC Digitalアドバイザー 澤 円氏がDXの実態、そしてDXが加速する中で評価されるスキル・経験について紐解いていきます。

*本記事は2025年2月28日にJAC Digitalが開催したオンラインイベントを一部抜粋、再構成したものです。また、文章表現を統一するため言い回しも変更しておりますのでご留意ください。

<登壇者・登壇企業紹介>

  • 山﨑 賢氏
    山﨑 賢氏
    イオン株式会社CTO 兼 イオンスマートテクノロジー株式会社
    CTO
    山﨑 賢氏
    ヤフー株式会社で新規サービスの立ち上げ経験を経て、ベンチャー企業で開発組織の立ち上げや新規プロダクトの開発を担当。
    その後、株式会社リクルートに入社して組織マネジメントとビジネスを学び、複数のベンチャー企業でCTOとしての経験を積み重ね、2023年3月から現職。
    イオン株式会社とイオンスマートテクノロジー株式会社の2社のCTOに就任し、イオングループのDX推進をリード。
  • 景山 均氏
    景山 均氏
    KINTOテクノロジーズ株式会社
    取締役副社長
    景山 均氏
    楽天グループ株式会社にて、楽天グループのデータセンター・ネットワーク・サーバーなどのインフラや、IDサービス・スーパーポイントサービス・メールサービス・マーケティングDWH・ネットスーパー・電子マネー・物流システムなどの開発を統括。
    その後、株式会社ニトリのIT、物流システムの責任者を経て、2019年6月にトヨタファイナンシャルサービス株式会社に入社。デジタルIT部隊の立ち上げをゼロから実施。
    2021年4月より現職。
  • 澤 円氏
    澤 円氏
    JAC Digitalアドバイザー
    株式会社圓窓 代表取締役
    澤 円氏
    元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフト株式会社へ。
    ITコンサルタントやプリセールスエンジニアとしてキャリアを積んだのち、2006年にマネジメントに職掌転換。
    幅広いテクノロジー領域の啓蒙活動を行うのと並行して、サイバー犯罪対応チームの日本サテライト責任者を兼任。
    2020年8月末に退社。2019年10月10日より、(株)圓窓 代表取締役就任。2021年4月22日よりJAC Digital アドバイザー就任。
    現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。
    美容業界やファッション業界、自動車業界の第一人者たちとのコラボも、業界の枠を超えて積極的に行っている。テレビ・ラジオ等の出演多数。Voicyパーソナリティ。武蔵野大学専任教員。

1. 年功序列は普段から感じるか

山﨑氏:半々だと思っています。弊社も含め小売業界は終身雇用で働く方が多く、人員流動性が低いことが大きな特徴です。私はエンジニア業界という流動性の高いところから転職したため、現在の会社は経験を積まれた年配の方が特に現場に多いイメージがあります。ただ、年功序列のように年次が高くないと上に行けないといった文化はないと思います

澤氏:現場で長く働いている方は望んで現場にいらっしゃるのですか?

山﨑氏:はい。イオンで働く方は小売の現場が好きだという方が多いので、選択肢の一つとして自ら現場を望んで働く方が大多数です。そのため、店舗で働いているから出世のレールからは外れているといった概念はありません。

景山氏:当社ではある程度年功序列感はあると思います。ただ、出世に関していえば年功序列は一切関係ありません。上司の年齢が年下というケースも多く、給料も年齢とリンクしていないので実力次第です。
もちろん上に行けば行くほど競争が厳しくなることで、一定年齢の範囲内に収まってしまっているため、トヨタグループ全体として打破しようという動きが進んでいます。

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2.大企業イメージとのギャップ

澤氏:イオンやトヨタのように大企業で誰もが知る名門企業となると、堅実性が高いゆえに自由度が低いといったイメージで一括りに見られがちですが、実際はイメージとギャップがありそうですね。

景山氏:トヨタには重要な部分は内製化する「手の内化」という文化があります。例えば車領域側におけるソフトウェアエンジニアは社内に多く在籍しています。ただ、KINTOテクノロジーズが担当するコンシューマー領域ではほとんど内製エンジニアはいません。ウェブアプリケーションやネイティブアプリ開発を行うエンジニアが必要なのですが、これまでベンダーさんにお願いしていた文化があり社内にこの領域のエンジニアはいなかったため、コンシューマー向けのエンジニアについても手の内化を進めることが必要だと理解してくれる方が増えてきています。新しい枠組みを作る部隊と既存ビジネスを推進する部隊の切り分けを行い、ハイブリッドなスタンスで自由度を高めています

山﨑氏:イオンはM&Aで成長してきた会社です。外からは伝統的な日本企業として見られることもありますが、常に異文化と付き合うことが会社の文化として定着しているため、非常に開放的です。個別の発展性を重視する会社で、統合した会社の文化を上書きすることもありません。

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3. 日系大手では失敗は許されないのか

イベントレポート

澤氏:お二人のように外部から今の会社に入られた場合、新卒から入って長く働いている方が多いなかで、成功をコミットしなければといったプレッシャーもあるかと思います。そこで、日系大手企業では失敗は許されないのかといったテーマでお話しいただけますでしょうか。

山﨑氏:イオンでは事業上のチャレンジで失敗した場合、反省はもちろんありますが、当事者が干されてしまうといったことはありません。仮に失敗したとしてもそれを次のチャレンジに生かしていこうという考え方です。
新たなチャレンジを行う際、最も重視するのはPOC(概念実証)ですね。まずPOCファーストである程度一定のコストと研究開発費、期間を決めます。ROI(費用対効果)が求められるのは決済時、つまりPOCが成功した後です。

もちろん、新たなチャレンジを起案する側の責任として、特に数億円規模の事業ともなればROIを設定します。ただ、始めてみないと見えない部分もあるため、仮に始めてからROIとのずれが生じたとしても強く責められることはありません

景山氏:新たなチャレンジを行う際は社内の多くの人を経由して稟議が承認されます。そのため、トヨタも失敗したとしても個人が責任を追及されることはありません。そうした意味では承認作業が安全装置としての役割を果たしていると思っています。

課題点としては、トヨタのROIを重視した従来型のルールと私たちが行っているアジャイル開発をすり合わせていくところです。従来型のルールで行ってきた方はアジャイル開発の物差しをもっていないため、相手を巻き込んでいくには、まず互いの関係性を構築するところから始めることが重要だと考えています。

澤氏:新規事業やスタートアップとROIは、ものすごく相性悪い言葉ですからね。ROIなんて言い出したら本当にチャレンジできないですからね。

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4. 評価制度について

澤氏:評価制度について、お二人はデジタル分野でご活躍されています。そのなかで現在の評価制度はエンジニアにとって公平に評価されていると感じますか、あるいは改善が必要だとお考えですか?

山﨑氏:現在、エンジニアの評価制度を調整中です。従来は1年間の目標を設定し、その達成度に基づいて評価を行う方式でした。ただエンジニアの業務は半年後の状況すら予測が難しく、1年単位の評価が適切ではありません。そのため現在は半年ごとの評価に変更し、さらに柔軟に対応できる制度を模索しています。
また、イオングループ全体の業績と個々のエンジニアの貢献度の関係も課題となっています。小売業であるため、利益が評価と強く結びついた業績連動性が高くなりがちですが、エンジニアの貢献には定量化が難しい部分もあります。

例えば、未然に障害を防いだことは非常に価値があるにもかかわらず、評価が難しいケースです。こうした側面を正当に評価するため、単なる業績連動ではなくエンジニアとしての本質的な価値を正しく評価できる制度の導入を考えています。そのためには、エンジニアの専門性や貢献を正しく評価できる管理者の存在も重要だと思っています。

景山氏:従来、管理職への昇進が昇給の主な手段でしたが、スペシャリスト職でも高待遇を得られる制度へ転換しました。具体的にはマネジメント職と技術職の評価体系を分離し、技術貢献度を30%評価に組み込んでいます。

技術力向上や組織全体への技術伝承といった項目を新設し、社員が技術研鑽に取り組みやすい環境を整備中です。また「技術資格取得支援制度」を導入し、外部認定資格の取得を評価に直結させる試みも行っています。
ただしグループ全体の制度変更には時間を要するため、現在はプロジェクト単位で柔軟な評価を実践するなど段階的な改善を進めています。

澤氏:両社ともエンジニアの評価制度を最適化していく最中であり、イオンはより柔軟性の高い制度へ、トヨタは技術者を重視した制度を模索しているということですね

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5. 日系大手でのエンジニアとしてのキャリアの成長

澤氏:お二人とも日系大手で働いていますが、エンジニアとしてのキャリアの成長と日系企業での経験はどのようにリンクするとお考えですか?

景山氏:日系企業におけるエンジニアのキャリア形成は、企業の取り組み次第だと考えています。例えば、従来の生産管理システムや物流システムのように、ベンダーに外注して構築する形が主流の企業では、エンジニアが成長する機会は限られます。
一方で、DXやAIといった領域では、外注よりも社内のエンジニアが主導した方が成功しやすいと考えられており、こうした分野に力を入れている企業ではエンジニアの価値が非常に高まっています

特に、経営層がエンジニアの重要性を理解し、内製化を進める企業では、社員エンジニアが事業の成功の鍵を握る存在として評価されます。
こうした環境においては、エンジニアとしての成長機会が増え、スキルを磨くことが可能です。そのため、日系企業においても内製化や技術革新に積極的な企業を選べば、エンジニアとしてのキャリアを十分に築くことができると考えています。

山﨑氏:私も日系大手企業におけるエンジニアの価値は今後ますます高まると考えています。ただし、技術の進化、特にAIの発展によって、従来のエンジニアの役割が大きく変わるのではと見ています。
現在、エンジニアは売り手市場といわれていますが、プログラミングを学ぶ人が増え、さらにAIがコード生成を担うようになると、単純なコーディングスキルの価値は低下するかもしれません。

そのため、エンジニアが市場価値を維持・向上させるには、AIを活用する側に回るか、データを直接扱うスキルを身につけるか、もしくは大手企業の複雑なビジネス環境の中で適切な意思決定を行う能力を磨くことが求められます
ビジネスやデータと連携しながら技術を活用できるエンジニアこそが、今後の市場で重宝されるでしょう。そういった意味で、大手企業での経験はエンジニアの市場価値を高める要素になると考えています。

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6. 今後の展望について

澤氏:今後の展望についてお伺いしたいと思います。これからお二人がどのようなことをやりたいと思っているかについて教えていただけますか。

景山氏:トヨタグループでは内製化の価値がますます高まっています。社員エンジニアの重要性を理解してもらうため、私たちが開発したプロダクトを見ていただき、評価していただく機会を増やしています。
その結果、アジャイルな内製開発に対する制度も柔軟になってきており、エンジニアにとって働きやすい環境が整いつつあります。今後もこの流れを推し進め、プロダクト開発を通じて内製化の理解を広げ、エンジニアがさらに活躍できる場を作っていきたいと考えています

山﨑氏:現在、JTC(Japanese Traditional Company:日本の伝統的な大企業)やエンタープライズ企業への関心が高まり、変革の風が吹いていると感じています。しかし、注目されているのは一部の企業に限られており、まだ大きな変革の波に乗り切れていない企業も少なくありません。私はイオンという会社を誇りに思っていますが、それ以上に日本全体の発展に貢献したいと考えています。

日本経済を活性化させるためには、JTCの変革が不可欠です。そのため、イオンの改革を成功事例として横展開し、JTCの企業が連携して変革を進める「JTC変革連合」のような動きを作りたいと考えています。
この取り組みが広がることで、より多くの企業が古い慣習を打破し、イノベーションを起こせる環境を整えられるのではないかと思い、今年はその実現に向けて積極的にチャレンジしたいと考えています

7. 質疑応答

Q. チャレンジが多い状況下において経営状況に問題はないのでしょうか?

A.景山氏:経営状況については問題なく運営されています。親会社であるトヨタファイナンシャルサービスは年間5000億円以上の利益を確保しており、資金面での不安はありません。KINTOテクノロジーズは売り上げや利益の追求ではなく挑戦重視です。ビジネス成功を支えるプロダクトを迅速かつ低コストで提供することを使命としているため、安心してチャレンジができる体制を整えています


Q.エンジニアの内製化を進めていくなかでゴールはどこに設定していますか?

A.山﨑氏:内製化のゴールは、社員がテクノロジーをハンドリングできる状態だと考えています。ベンダーとの協業は否定しませんが、ソフトウェアの管理や意思決定の主導権を自社でもつことが重要です。
全員を社員に置き換える必要はなく、ベンダーとのコラボレーションや競争を通じて、技術力を高めていくことが内製化の本質だと捉えています。

景山氏:究極の内製化とは、エンジニアが自ら考え、プロダクトを開発し、ビジネスまで展開できる状態です。ビジネス側と開発側が連携することは重要ですが、それには手間がかかります。
そこでエンジニアがビジネススキルを身につける、あるいはビジネス担当者がプログラミングを学ぶことで、より効率的な開発が可能です。
完全な内製化は難しいため、ビジネスサイドと開発サイドが協力して、理想に近い状態を作り上げていくことが現実的な目標だと考えています


Q.DXシステムの導入が目的となり、導入したものの使われない、現場からは業務が増加するだけといわれてしまうといったケースも少なくありません。こうした状況を打破する上でどのような工夫をされていますか?

A.景山氏:DXの押し付けは失敗しやすいため、現場の自発的な取り組みが重要です。まずはDXの概念や効果について研修を行い、リテラシーを向上させることから始めます。その後、各自の業務でDXできることを考えてもらい、徐々にプロダクト開発へと進めていくことが効果的です。
メンバーにはAI活用を重視し、「AIファースト」の姿勢でプロダクト開発に取り組むことを求めています。DXの導入はAIをフックにして、社内ルールや取り組み方を変革するチャンスだと考えています

山﨑氏:DXシステムが現場で使われるようにするため、営業部門のKPIにDX活用を組み込み、使わざるをえない状況を作ります。結果が伴わない場合は撤退も視野に入れる柔軟性も大切です。また、メンバーには積極的に外部情報を取り込み、行動力をもって変革を推進する姿勢を求めています。


Q.転職活動をしている方がAIに真剣に取り組んでいる企業を見極める方法を教えてください。

A.景山氏:社員が自主的に熱意をもってプロジェクトを進めているかどうかで判断できます。ビジネスへのAI活用を許容し、支援する文化がある企業は信頼できます。また、社員にはAIの可能性を先進的に捉え、積極的に利用・推進する意識をもつことを求めています。

山﨑氏:データの活用に対する本気度を重視しています。AIの学習にはデータが重要であり、企業がデータをどのように取り扱い、整備しようとしているかが鍵となります。単にAIの使用状況だけでなく、データの取り扱いや整備に対する経営陣の本気度を確認することが、AIを正しく活用できる企業を見極める上で重要だと考えています

この記事の筆者

株式会社JAC Recruitment 編集部

株式会社JAC Recruitment

 編集部 


当サイトを運営する、JACの編集部です。 日々、採用企業とコミュニケーションを取っているJACのコンサルタントや、最新の転職市場を分析しているJACのアナリストなどにインタビューし、皆様がキャリアを描く際に、また転職の際に役立つ情報をお届けしています。

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