2023年下半期の転職市場動向と採用傾向を、JAC Recruitment(以下、JAC)のプリンシパルアナリスト黒澤敏浩が解説。
まず、業界別・職種別の転職動向をお伝えした後で、転職市場全体のトレンドを3つご紹介いたします。
業界別・職種別転職動向:
IT業界はじめ、ほぼ全業界・全職種の求人数がJACの過去最高水準

ミドル・ハイクラス(30代・40代・50代)の管理職、専門職で転職を考えている方にとって、どのような採用ニーズがあるか気になるところでしょう。
JACの新規求人数は2020年に一時落ち込みましたが、2022年上半期には既に過去最高水準に回復。現在の転職市場の環境は決して悪くなく、2023年下半期も堅調に推移すると予測されます。
では、業界別に求人傾向を解説します。
IT業界
IT業界の求人数は、全体的に増加傾向。一部の外資系企業のみ求人数が減少しています。
増加している求人には、下記の傾向が見られます。
B to C
e-コマース、ゲーム、動画配信などのエンターテインメントのマーケティング関連の求人。各種の娯楽に関して、従来のような買い切り型、パッケージ型から、娯楽のサブスクリプション化を進めるため、このような求人が増えています。
B to B
コロナ禍を通じて社内デジタル化のメリットを実感した企業が多く、また、セキュリティへの課題がさらに高まってきている背景から、社内でのデジタイゼーション、会議システムやクラウド関連、サイバーセキュリティやデータセンター関連の求人が増えています。
各事業会社
社内システムの導入経験者や社内SEの求人が、各社共通して増えています。DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が社外発注から、内製化し、社内にシステム専門人材を採用して配置する動きが拡大しているためです。
コンサルティングファーム
IT関連だけでなく、他の分野のコンサルティング需要は継続的に増加、中途採用は活況です。
2022年末までは未経験者採用やポテンシャルを考慮した採用が目立ちましたが、2023年に入ってからは、即戦力で貢献できる経験者やミドル層の採用が増加。
また、2022年まではDXの検討フェーズにいる企業が大多数だったため、導入を推進できる方の採用が多く見られました。2023年に入り、DXを導入しビジネスとして成果を出せるかどうかを重視する傾向が強まっています。そのため技術に対する深い知見だけでなく、技術を活用してどのような結果を残してきたかを採用時に重視する傾向が出ています。
ライフサイエンス関連業界
コロナ禍でも求人増が続いていたライフサイエンス(医薬品・医療機器)関連業界については、状況が落ちついてきましたが、全体としては日系・外資系、ともに従来からの新薬開発競争が再開されて活発に。2023年は過去最高を超えるペースで新規求人が発生しています。
電気・機械製造業
電気・機械などをはじめとする製造業は、ほぼ全分野で求人が活発化していますが、特に、半導体業界では設計から生産の広い分野にわたって需要が高まっています。
また、製造業全般の傾向として、デジタル化が急務となっており、多くの企業がIT人材を社内に取り込んでいこうとする動きが加速していることから、約50%がデジタル系求人となっています。
エネルギー業界
一貫して伸び盛りである新エネルギー業界。特に風力などの再生可能エネルギー業界では、CO2排出量の抑制という気候変動対策に加えて2022年のロシアのウクライナ侵攻拡大を受けてエネルギー安定供給の地政学的側面からもその注目度が高まり、2023年に入り新規求人は急増。過去最高を更新しています。
なお、成長を続けている新エネルギー業界の経験者は市場にあまりいないため、従来のエネルギー業界での経験者も強く求められています。スキル・経験のある方は、定年を超えるようなご年齢であっても採用されているケースが多いのが特徴です。
ESG/SDGs関連
気候変動や人権問題、自然保護などSDGsへの関心の高まりを背景にESG投資は拡大しており、ESG/SDGsの投資に関連するポジションの採用が増加しています。
例えばJACでお取り扱いする求人において、ポジション名に「SDGs」という単語が含まれる新規求人は、この2年で4倍程度に増えています。
具体的には、製造業・金融業界・コンサルティング業界を中心に、サスティナビリティを推進するポジション、ESG投資の選定にかかわるポジション、環境関連施策をリード・促進するポジションなどのニーズが拡大しています。
インサイドセールス
どの業界にも共通した傾向として、インサイドセールスの需要が高まってきていることが挙げられます。
コロナ禍以降、クライアント企業での在宅勤務も浸透してきたことでインサイドセールスが成果を上げており、積極的にインサイドセールスの強化を図る例が増加。今後も継続されると予測されています。
地方中堅オーナー企業の幹部
地方の中堅オーナー企業の世代交代に伴い、幹部採用のニーズが高まっています。
地方の中堅オーナー企業の2代目、3代目は、もともと大都市圏で仕事をした経験がある方が多く、ともに事業を成長させてくれる優秀な人材を採用するには、それに見合った給与や待遇を用意する必要があることを理解しているため、地方の年収水準より高年収で採用される例が多いです。
2023年下半期全体の転職市場トレンド

ここまで書いている通り、現状の採用市場は少なくともこの30年ほどで最高の状況にあります。
全体的な転職市場のトレンドとして、下記3点が挙げられます。
①国内外の株価は過去最高水準。転職市場は活況
転職市場が活発化する理由にはさまざまありますが、国内外金融市場の変化もそのひとつです。
2023年下半期の特徴としては、7月時点で国内外の株価は過去最高水準であること。企業の業績の見通しが悪いと、諸条件はもちろん、キャリアを変えるといった挑戦的な転職も厳しくなります。その点で、今は、好条件や新たなキャリアへの挑戦を行うにはよい状況と言えるでしょう。
なかでも、売上増加や生産・販売増加に直接結び付かないバックオフィス、ミドルオフィス、管理職などの転職には良いタイミングです。
②賃金のベースアップによる給与水準の変動
日本の給与水準は、GDP超低成長とデフレ傾向を反映して、横ばいの期間が30年ほど続きました。それが、円安や地政学要因などの物価高を反映して、2023年4月を中心に賃金のベースアップを行った企業が多数あり、賃上げの動きが広まっています。
これにより、賃金表が改訂され、従来と同じポジションの給与が以前より高い金額に変わった企業も多く存在します。他方で、同じ業界内でも、賃上げを行わない、行えない企業も数多く存在し、企業による差が見られました。
具体的に自分が転職を検討しているポジションの給与水準がどうなっているのかについては、自身で情報収集するには難しい場合もあります。各業界・各企業の状況は、業界・企業情報を熟知しているJACのコンサルタントにぜひご相談ください。
③勤務形態の多様化
2023年5月のコロナ(COVID-19)の5類感染症移行に代表されるように、コロナ禍が本格的に明けてきたのが2023年上半期末の特徴になります。これらの動きを受け、コロナ禍対応で一気に導入されたリモートワーク(テレワーク・在宅勤務)への対応が企業によって分かれています。
具体的には、「コロナ禍の解決により、従来通りのオフィス出社義務の勤務に戻した企業」と、「コロナ禍をきっかけに導入したリモートワークのメリットを評価して、全面的あるいは部分的(ハイブリッド)に残した企業」です。
さらに、「フルリモートワークでも、いざというときに出社可能な場所にいることを求める企業」と、少数ではありますが「国内であれば、どこに居住していても構わないとするロケーションフリーの企業」にも分かれています。
また、転職ご希望者においても、企業を選定する上でリモートワークの可否を確認するケースが多くなっています。転職ご希望者に合わせてリモートワークの可否を決定するタイプの企業もあり、オファー条件の交渉要素の一つにリモートワークの可否が入るようになりました。
コロナ前であれば、リモートワークはITエンジニアかごく一部のスタートアップ企業など、限られた選択肢でしたが、現在では、転職時の動機や条件、選択肢となってきています。まさに今の転職市場のトレンドの一つです。
自分に合った転職先を一つ見つけることが重要
ミドル・ハイクラスの転職において重要なのは、自分にあった転職先を「たった1つ」見つけることです。
その「たった1つ」を見つけるためには、企業のことをよく知り、求人の背景をよく理解できている人と直接話をする、メールで相談するなどして情報を収集することが大切です。
JACのコンサルタントは、採用企業と転職ご希望者の両方をひとりのコンサルタントが担当する両面型コンサルティングを行っています。そのため、JACのコンサルタントは常に企業の新しい情報や、必要とされるポジションに関する情報を日々アップデートしています。
転職したい業界の市場動向が少しでも気になりましたら、お気軽にJACのコンサルタントにご相談ください。


【この記事の著者】黒澤 敏浩
プリンシパルアナリスト
ホワイトカラー中途採用マーケット分析の専門家。人材サービス産業協議会外部労働市場賃金相場研究会委員。JAC リクルートメント グループ各国から集計した、グローバルな中途採用関連データに基づくリアルな分析が、各方面で好評を博している。東京大学法学部卒業後、JACリクルートメント入社。コンサルタントを経て、自社の人事、広告、広報、内部監査、事業企画などを担当し、現職。日本人材マネジメント協会執行役員。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。