管理職・専門職の皆様は、この1~2年で「人的資本経営」という言葉が流行していることはご存じでしょう。ここでは、皆様が実施しているマネジメントにおいての「人的資本経営」の意味、また、ご自身のキャリアにとっての「人的資本経営」の意味について、「ISO 30414(人的資本情報開示ガイドライン)リードコンサルタント」の認定を取得しているJAC Recruitmentのプリンシパルアナリスト黒澤敏浩が解説します。
まずは、そもそもの「人的資本経営」という考え方から見ていきましょう。
目次/Index

人的資本経営が日本で注目されている背景
欧米で進む人的資本経営、特にSEC(米国証券取引委員会)での人的資本開示の流れが、日本にも影響しています。ただし、日本での人的資本経営の位置づけは少々複雑です。
日本では大戦前後から、未経験新卒を積極的に採用し数十年育てる経営が、特に大手企業により行われており、まさに「人的資本経営」的な考え方で運営されています。そのため、「人的資本経営」と言われても、「何を今さら」と感じられる方も多いかもしれません。
そのような中、日本で注目される理由には、米国追随以外に、次のような3点があります。
日本企業は「Off-JT」を増やす余地が大きい
GDPに占める企業の能力開発費の割合は、日本は主要先進国に比べ10倍から20倍ほど低いです。これは「OJT(職場内訓練)」を含まない統計なので、「人材育成を軽視」とは言えませんが、それでも日本は、企業による「Off-JT(職場外訓練)」への投資が非常に少ないのは確かです。これで本当に良いのか、改めて見直していく必要があります。
「長期育成型雇用重視」の旗印としての意義
今、日本では米国とは逆の方向に、「長期雇用から短期清算型の雇用へ」の流れも一部にあります。しかし「人的資本経営」は「長期化」の動きなので、人的資本を考えることが、長期的施策を維持・促進する一つの旗印の機能を果たしている面があります。
社会的要請からの「多様な人材の採用・育成・活用」
戦後、日本企業の長期育成対象は、「新卒・男性・日本人・正社員」にのみ最適化されている傾向がありましたが、今の「人的資本経営」では、他の人も育成・活用するという点が新しい特徴になります。
日本企業の経営者・管理職・リーダーは何が求められるか?
そもそもの「人的資本」とは、「個人」が持つ「スキルを資本として見る」という考え方(ベッカー(1975)『人的資本』)です。
「人的資本経営 (Human Capital Management) 」は、「企業」がその「スキルを持った従業員」を保有しているという考え方です。
つまり、「人的資源管理 (Human Resource Management) 」が「消費する」資源、「使う分だけ用意する」資源というイメージなのに対し、「上手に使ってどんどん増やす」資本、「増えれば増えるほど良い」資本といったイメージです。
企業が従業員を長期育成すると同時に、従業員が企業へコミットメントを持ち、一定程度、長期的に勤続し、来年以降も企業へ利益をもたらすという観点が、「人的『資本』経営」に込められています。
では企業経営において、何が重要になってくるのでしょうか。経営者、およびリーダーという立場の方々は、大きく分けて下記3点を身につけておく必要があります。
「長期的な人材育成活用」の重要性の再認識
日本の長期育成型雇用のメリットは80年代に米国へ伝えられ、「人的資本経営」の源流の一つになりました。つまり、日本企業は、人的資本経営のモデルなのです。そして、この『日本型』が、欧米の投資家等にも高く評価されてきています。
この点から、人的資本や組織コミットメントで長年培ってきた自分たちの強みを、自社における施策に活かせているか、広い視野で冷静に見ることが必要となります。
人的資本およびその取り組みを「数字で分かるように」する
従来型の日本企業にとって「長期的な人材育成・活用」は普通のことです。一方、これを数字で把握、社会的に開示し、例えば投資家からの高評価に結び付けていくという点は新しい動きです。
数字の開示において、管理職・リーダーに必要なことは、自分の行っている育成行動を、より「見える」形にしておくことです。
例えば業績向上での人的資本経営の場合、研修時間をどれだけ増やしたらKPIがどれだけ増加して、最終的な利益額にどれだけつながったかを把握していることが肝になります。特に、最初の投資投入のタイミングと、最終的な成果までにはタイムラグがあり、実際の関係を把握することは容易ではありません。しかし、これが分かっていると、自部門の人的資本経営を有効に進めることができ、全社・他部門への先行模範事例ともなるでしょう。
長期育成活用の対象を多様な人材に広げる
もう一点、「多様な人材の採用・育成・活用」があります。これは従来型日本企業が、一般的にあまり積極的には取り組んでこなかった分野です。例えば女性、高齢者、非正規社員、外国人といった人材を指します。彼らを一時的に活用するというだけではなく、長い目で見ることが求められます。彼らの組織へのコミットメントが高まり、かつスキルが継続的に高まっていくといった施策に取り組んでいくことが、求められます。
人的資本開示情報の活用方法
現時点で人的資本についての特別なレポートを行っている企業はまだ少ないですが、今後、東証プライムなどの上場企業を中心に、人的資本についての各社の開示が進められていきます。そして、この開示されている情報や数字から、企業の考えが見えてきます。
先行している米国では、SECによる義務的な開示項目は限られている中で、財務報告における人材に関する記述の文字数は圧倒的に長くなりました。
こういった情報を読解する際には、何が書いてあるかがもちろん重要ですが、何が書いていないかも重要です。例えば、先行して開示している某社は、「従業員の組織エンゲージメント」について公開をしていますが、別の某社は同項目を公開していません。公開していないことは、その企業のレポートだけをみてもわからないので、現在の開示の全体傾向を知っておくことが、個別企業の方針理解に役立ちます。
開示情報から理解した各企業の方針のポイントは、自社・自部門の経営や他社からの人材登用、自分の転職先検討に活かすなど、さまざまな活用が可能です。
個別キャリアに役立つ情報を収集するために
今の会社で、あるいは別の会社で今後どのようにキャリアを積んでいくのかを考える際、人的資本経営やジョブ型など、雇用システムの「世の中全般の傾向」を理解することはもちろん大事です。ただし、あなたが直接関係するのは勤務先の会社の動向であり、さらに、自分のポジションの動向です。
新聞、雑誌、インターネット、また求人広告などで表面的に出てくる情報は、日々、収集すべきですが、直接、その企業の方と話さないと分からないような情報を手に入れて判断することが、もっとも重要になります。 全社で大方針として公表したものと、実際に「今そのポジションで」大事なものが全く逆である、ということはよくあります。そういったことは口頭でしか話されない、あるいはクローズドなところでしか伝えられないことがあります。そういった本音が聞ける情報源を、ぜひ手に入れていただきたいです。
「対象の現場の方と話す」ことは大事です。さらに「個別事情をよく理解しているプロと話す」のは、「外の観点から見る」「直接聞きにくいことを、人を介しているからこそ聞ける」といったメリットがあります。
その点、JAC Recruitmentのコンサルタントは、採用企業の採用担当者、経営陣と直接コミュニケーションをとっているため、企業の状況を深く把握しています。客観的なアドバイスや、企業へは直接聞きづらいご相談がある際は、ぜひお気軽にご相談ください。

黒澤 敏浩
プリンシパルアナリスト
ハイクラス・管理職の転職に強い人材紹介会社のジェイエイシーリクルートメント(JAC)でマーケット研究などを担当し、ホワイトカラー転職市場や給与の分析などで20年の経験を持つ。人材サービス産業協議会の「外部労働市場における賃金相場情報提供に関する研究会」委員や日本人材マネジメント協会執行役員「人事(HRM)の投資対効果(ROI)」担当も務める。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。国家資格キャリアコンサルタント。ISO30414(人的資本情報開示ガイドライン)リードコンサルタント。
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