先進的なデジタル技術で“難しい”医療に挑む医療機器・ヘルスケア業界の転職市場動向を見極める

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医療機器・ヘルスケア業界を対象にデジタル領域専門で採用を支援する当社のコンサルタントが、業界のDX推進状況と、それに伴うデジタル人材ニーズの変化、採用を成功させるためのノウハウを解説します。

解説者

大森 允詞

入社から一貫して医療機器業界専任のコンサルタントとして、企業の採用・組織コンサルティングを手がける。現在は、医療系スタートアップに特化したチームの立ち上げに従事。

増田 文平

医療機器業界専任のコンサルタント。画像診断、放射線治療、デジタル、歯科、美容、外科関連の領域を専任する。

AIなどのテクノロジーの進展で、より難しい医療にデジタルを活用し始めた

従来の医療機器・ヘルスケア業界において、デジタル技術はコンシューマー向けの健康管理アプリ、ヘルスケア情報を提供するWebサービスや、レセプト管理などの医療機関向け業務管理システム、画像共有ソフトウェア、電子カルテなど、治療に直接関わらないものに用いられるのが主流でした。

しかしここ数年、デジタル技術が臨床に応用されるようになってきました。例えば、画像診断にAIが判定するソフトウェア、手術の際のナビゲーションシステムなどといったものです。ほかに、デジタルセラピューティクスと呼ばれる、医師が慢性疾患の患者にアプリを“処方”し、病気の予防や診断から治療などの医療行為までを行うプロダクトなども生まれてきています。

生死に関わる重い病気の診断や治療など、より「難しい」医療に、デジタル技術を用いて対応しようとする企業が増えつつあります。ただ、これらのプロダクトはまだ医療機器として薬事承認を受ける必要があるものが多く、この先1〜2年は承認が下りるかどうかで、個別のプロダクトの動向は多少変わってくるはずです。

また、以前はそれぞれの医療機関に独立して構築されていた業務管理システムがクラウド経由で提供されるようになったり、地域の医療機関をつなぐ地域医療連携を支援するシステムが出てきたりと、ネットワーク化する傾向があります。
さらに、2020年は新型コロナウイルス感染症の対応として、オンライン診療に関する規制が一部緩和されましたが、このオンライン診療のプロセスを支援するアプリケーションなども注目されています。

これまで、医療機器・ヘルスケア業界は外資系企業がシェアの大半を占めており、そこに日系企業の大手が数社プレーヤーとして加わっているという状況でした。しかし近年、この領域のベンチャー企業の数が急速に増えており、デジタル技術を持つベンチャーが外資系・日系を問わずいろいろな会社とプロダクトの共同開発を進めるなど、協業の動きが活発です。

大手は異業種のデジタル人材を求め、ベンチャーは医療・ヘルスケア業界経験者を求める

従来の医療機器・ヘルスケア業界において、大手企業は業界経験者を求める傾向にありました。特に外資系でその傾向が強く、人材流動の観点ではかなり閉じた業界だったといえます。一方、ベンチャー企業は、これまではどちらかというと若手・未経験者がセールス、マーケティング要員として多く採用されてきた経緯があります。外資系・日系大手とベンチャーがそれぞれ別々の層をターゲットにしていたため、競合も起きませんでした。

しかし、デジタル技術を生かしたプロダクトを求める市場の要請から、ここ数年で求人の傾向にも変化が見られます。

外資系ではデジタル関連のプロダクトに携わった経験者を求めるポジションが出てきており、異業種でもDXを推進できる人の採用に力を入れ始めました。職種としては、セールス、マーケティングなどの職種が多く、他には事業開発(ビジネスデベロップメント)といったポジションも目立ちます。外資系の場合、プロダクトの開発は基本的には本国で行われており、日本では販売、医療機関等のDXの流れに自社製品をいかに乗せていくかが主眼となるためです。そのため、医療業界や医療機器に関する専門性よりも、デジタルなプロダクトに携わったビジネス経験が重視されます。

日系の大手企業も同様で、AIやIoT関連の新規事業立ち上げのために、デジタル化で先を行く他の製造業、自動車や半導体メーカーなどで働いた経験がある人材を求める求人が出始めています。

半面、ベンチャー企業は医療機器・ヘルスケア業界経験者を求める傾向が強まっています。AIなどの高度なデジタル技術を臨床に応用するためには、プロダクトの薬事承認を受ける必要がありますし、販売に際して、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)などの法規制を遵守するために、さまざまな問題をクリアする必要性が出てきます。そのため、業界に通じている製薬会社や医療機器メーカー出身の人で、薬事申請や医療機器の規格対応経験者を採用したいベンチャーが増えているのです。

人材流動性が高まり、キャリアパスも多様化する医療機器・ヘルスケア業界

最近の、特に日系企業の傾向として、求人を掲載するポジションに「裁量がある」ことをアピールする企業が増えています。デジタル化を推進するポジションということは、すなわち新しい事業や新しいプロジェクトの推進に責任を負う立場。候補者側からすると「どれだけ自分の裁量で手腕を振るえるか」が比較要素となるからです。

こうした流れに伴い、企業側から候補者へ、「新規事業として何をしようとしているのか」「予算規模はどれくらいか」「任せるポジションの醍醐味」などを選考の過程で十分にプレゼンテーションするケースが増えているようです。実際、裁量の大きさを上手くアピールできた企業が、採用に成功する傾向が見て取れます。

また、外資系企業も同様の変化が見られます。従来、外資系の医療機器メーカーは、本国からのトップダウンの戦略により日本での販売を粛々と実行するイメージでしたが、AIなどの高度なデジタル技術が用いられるようになり、日本市場で販売・導入する過程でメーカーと医療機関が共同開発をするなど、その国の市場独自の戦略とノウハウが必要になってきています。そのため、外資系企業における事業開発やマーケティングなどのポジションにも裁量権が増えているのです。

一方、ベンチャー企業の場合は、「ゼロイチ」に携われることを謳う企業が多く見られます。また、最近の傾向として、医療機器・ヘルスケア業界から経験豊富な人材をCxOとして迎えるケースもあり、医師とエンジニアが共同で創業したベンチャーで、地域医療に造詣の深い方がCOOとして採用されたケースが実際にありました。

業界全体として見ると、人材の流動性が高まり、キャリアパスも多様化しています。以前は日系から外資へ転職すると、以降のキャリアはずっと外資畑というケースがほとんどでした。しかし最近では、日系企業から外資へ転職した後、そこでの経験を生かして再び日系企業へ転職するようなケースが増えつつあります。日系から外資系企業に転職し、シニアスペシャリストとしてマーケティングに従事していた方が、日系企業にマネジャーとして転職された事例もありました。

ベンチャー企業への転職も同様で、大手企業から一度ベンチャーへ転職するとずっとベンチャーでキャリアを歩むことになり、大手企業へ戻るのは難しいとも言われていましたが、近年はその傾向が薄まりつつあります。ベンチャーでの経験が、これから新規事業を創出しようとする大手の医療機器メーカー・製薬企業で評価されたり、他のベンチャー企業でも需要があるなど、キャリアの可能性は広がっています。

ただ、この流動性の中でキャリアを築く上での鍵となるのが、先進的なプロダクトの開発や上市に携わっていた、デジタルを活用する新規事業やプロジェクトを推進した、などのデジタル経験です。

社会貢献性は当たり前、「自社ならでは」の魅力を候補者にアピール

異業種から医療機器・ヘルスケア業界へ転職する人にとって、この業界の仕事は「人命を救う」「病気やけがを治す」「人々を健康にする」といった社会貢献性の高さが魅力に映っていました。これは採用する企業も同じ認識で、その点を候補者に対してアピールし、採用成功につながっていた面がありました。

しかし、ベンチャーを中心に業界のプレーヤー企業の数が増え、事業やプロダクトが多様になっていく中で、社会貢献性はあくまでも「前提」でしかなく、入社するかしないかを左右する要素ではなくなってきました。

そのような中で、企業が候補者に対して魅力付けをするには、「自社ならでは」の特徴を訴求しなければなりません。事業内容やプロダクトが社会に及ぼすインパクトの大きさ、ポジションやそこで得られる経験の価値、将来的なキャリアパスの幅広さなど、「ここで働くことで得られるもの」を具体的に言語化して説明することが、候補者から選ばれるために必要だということです。

また異業種からの採用においては、前職との給与水準のギャップがボトルネックになるケースが見受けられます。外資系企業では、事業開発やマーケティングのポジションの採用ターゲットにコンサルティングファーム出身の人を含める傾向がありますが、前職の高い給与水準を考慮したオファーを出す際に、グローバルの承認を得るハードルがあり、その場合、日本法人の人事が「その人を採用したことによって、どれだけ利益が見込めるか」を計画としてグローバルに提出して承認を得るという対応を取っています。

日系企業については、これまで同業種からの採用が基本だったため、異業種から人を受け入れる上で必要な制度が整っていないケースが多いです。ただ最近では、デジタル人材の重要性を認識しジョブ型採用の導入を検討する動きも生まれています。

ベンチャー企業に関しては、報酬面の条件が必ずしもファースト・プライオリティではなく、「ビジョンに共感できるか」であったり、成果を上げるまでのスピード感を重視したりしてベンチャーを選ぶ人が比較的多いように見受けられます。大手企業に在籍していて新しいことに挑戦しにくいと感じる人が、「革新的なことを小規模な組織でスピーディーにやりたい」という思いから転職を考えるパターンが多いのです。そういった人材に対して、短期間で幅広く濃密な経験ができる点をアピールすることが、ベンチャー企業における採用の可否を左右します。

越智 岳人

インタビューアー:越智 岳人

編集者・ジャーナリスト。現在はフリーランスとして技術・ビジネス系メディアで取材活動を続けるほか、ハードウェア・スタートアップを支援する事業者向けのマーケティング・コンサルティングや、企業・地方自治体などの新規事業開発やオープン・イノベーション支援に携わっている。

畑邊 康浩

ライター:畑邊 康浩

編集者・ライター。語学系出版社で就職・転職ガイドブックの編集、社内SEを経験。その後人材サービス会社で転職情報サイトの編集に従事。
2016年1月からフリー。HR・人材採用、IT関連の媒体での仕事が中心。

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