国の方針・動きから読み解く「DX」でどこを目指すべきか

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企業の中でDX推進担当となり、「DXと言っても何から着手すればいいのか」「いろいろな方向性が考えられる中、どの方向へ進むべきか」と悩まれている方も少なくないでしょう。社内の声を聞くことも大事ですが、DXにおいては社会の要請に応えることも重要です。

我が国では首相の交代後、デジタル庁の新設が打ち出しされ、政府・行政周りのデジタル化の動きがにわかに注目され始めました。具体的な動きはこれからですが、過去のIT戦略の系譜を紐解くことでも、政府がうたう「デジタル化」が何を目指しているかが見えてくるはずです。

国は民間企業の競争力強化のためにDX推進を促してきた

DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉は、報道などで聞かない日がないほどに当たり前に使われる言葉になりました。

DXの概念自体は2000年代に生まれたものですが、ビジネス界でこれほど一般的な言葉になったのは、経済産業省が2018年9月に「DXレポート」を発表したのがきっかけでしょう。

DXレポートでは、企業内でレガシーシステムが事業部門ごとに縦割りになっており、全社横断的なデータ活用が難しくなっていること、部門ごとのシステムが過剰なカスタマイズにより複雑化・ブラックボックス化していることを指摘しています。それらの課題を解決できない場合には、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性を“2025年の崖”と称して、企業の経営層に発破をかけました。

同年12月、経済産業省はDXレポートでの提言に基づき、「DX推進ガイドライン」を発表します。このガイドラインは、DXを実現する上で基盤となるITシステムを構築していく上で経営者が押さえるべき事項、取締役会や株主がDXの取り組みをチェックする上で活用できるものとされています。

このDX推進ガイドラインの中では、DXのことを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義ました。企業を主語にした場合のDXの定義としては、ポイントを押さえた妥当なものでしょう。

コロナ禍で認識された「国と社会のDX」の必要性

DXレポートとDX推進ガイドラインは「国が企業にDX推進を働きかけた」動きでした。それから1年と少し経った2020年の初め頃から、新型コロナウイルス感染症が世界中に蔓延しはじめます。本来DXとは何の関係なく、もちろん誰も予測できなかった事態ですが、コロナ禍が引き金になり、日本の政府・行政のデジタル化の遅れを露呈させました。

特別定額給付金の申請・給付においては、マイナポータルからの申請を受け付ける形にしたのは良かったのですが、マイナンバーカードの普及率がまだ低いことや、申請者とマイナンバーの紐付け・確認作業がデジタル化できておらず、かえって混乱や支給の遅れを招くことになりました。雇用調整助成金はオンライン申請システムを構築するも、複数のシステム障害により運用できず、オフラインでの手続きとなりました。

ほかにも、新型コロナウイルス感染者管理システム「HER-SYS」や接触確認アプリ「COCOA」は、その背後のデータフローがアナログ運用だったことで能力を十分に発揮できなかったり、小・中学校をはじめとする教育機関のオンライン対応の遅れやバラつき、インフラ面の地域格差などが取り沙汰されたりもしました。要するに、「国自身のDXはどうなのか」と問われることが多数起きたのです。

さらにコロナ禍は、政府だけでなく社会全体にもDXの必要性を認識させました。

2月下旬頃から人が多く集まるイベントの開催自粛が要請されはじめ、やがて“三密”を避け、不要不急の外出も避けるようにというお達しで、一般の人々の行動も大きく制限されるようになりました。4月の緊急事態宣言により、飲食店など多くの店舗が営業を制限され、企業・団体ではオフィスワーカーを中心にリモートワークを余儀なくされました。

コロナ時代に合わせた「ニューノーマル(新たな日常)」が叫ばれ、Web会議ツールが急速に普及する一方、「書類の押印のためだけに出社しなければならない」といった声も多く聞かれ、大都市圏を中心に社会全体に「デジタルの力を借りなければならない」という認識が進んだといえるでしょう。

コロナ後のDXは「デジタルニューディール」の一環

そんなコロナの渦中、デジタル社会推進特別委員会が「デジタル・ニッポン2020」という約200ページに及ぶ提言をまとめ、公表しました。

「デジタル・ニッポン」とは、何も突然言い出したことではありません。2001年に自民党内で発足したe-Japan特命委員会を中心に、2010年から電子行政やICTの実装に関するビジョンと策定し、政府に提言してきました。そこに今年、コロナ禍から得られた示唆を基に、必要な政策をデジタルの観点からまとめたものが「デジタル・ニッポン2020」という位置づけです。

出典 デジタルニッポン2020

この1カ月後の7月には、経済財政諮問会議が出した「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太の方針2020)」が閣議決定されましたが、これも「デジタル・ニッポン2020」で検討された現状理解や考え方を一部反映したものになっています。

骨太の方針2020には「危機の克服、そして新しい未来へ」という副題が付けられており、コロナ禍による打撃と受けたダメージの回復を強く意識して、5つの方針を打ち出しました。

  1. 「新たな日常」構築の原動力となるデジタル化への集中投資・実装とその環境整備(デジタルニューディール)
  2. 「新たな日常」が実現される地方創生
  3. 「人」・イノベーションへの投資の強化
  4. 「新たな日常」を支える包摂的な社会の実現
  5. 新たな世界秩序の下での活力ある日本経済の実現

出典 経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太の方針2020)

ここで注目したいのは「デジタルニューディール」というキーワードです。ニューディールとは1929年に始まった世界大恐慌からの回復のためにアメリカが行ったニューディール政策であり、これになぞらえたものなのでしょう。

デジタルニューディールとして、まずは「デジタル・ガバメントの構築を“一丁目一番地”の最優先政策課題として位置付ける」とし、同時に「民間部門のDXを促進し、民間の投資やイノベーションを誘発する環境づくりを進める」とうたっています。

さらに、テレワークの促進など新しい働き方・ 暮らし方の改革を、少子化対策や女性活躍の拡大と連携して推進する、変化を加速するために制度・慣行(例えばハンコなど)の見直しを、規制改革等を通じて推進するとしています。

目指すのは「Society5.0」

もう1つ、国の考えを読み解く上では、骨太の方針と同時期に政府CIOが打ち出した「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(IT新戦略)」にも着目しておくべきでしょう。

ちなみに政府CIO(内閣情報通信政策監)とは、各中央省庁が独自に情報システム構築してきた歴史的な経緯を受け、そこに横串を刺し行政府全体のICTに関する政策を統括する公務員のポストです。政府CIOは内閣官房に設置されたIT総合戦略室の室長として、ITの活用を通じた国民の利便性向上を目的にIT戦略の立案・推進を行う立場です。

このIT新戦略にも「デジタル強靱化社会の実現に向けて」という副題があり、デジタルの力で新型コロナの感染拡大を阻止すること、新型コロナによる負の影響からのレジリエンスが意識されていることがうかがえます。この中で、DXは改めて以下のように説明されています。

将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを創出・柔軟に改変すること。企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること。

IT新戦略では、新型コロナによって引き起こされた社会・価値観の変容が「行政」のほか「経済・生活」「働き方」「健康・医療・福祉」「教育」「防災」の観点でまとめられており、内閣府が打ち出している「Society5.0」の時代にふさわしく、IoT、ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータなどの先端技術を取り入れた施策が示されています。

また、この戦略を推進する上で策定・見直しが必要な「ポリシー/ルール」、施策を進めるデジタル基盤となる「プラットフォーム」、「ソフトインフラ」「ハードインフラ」が整理されており、政府が何をスコープに入れているのか概略が理解できます。

出典 世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(政府CIO)

自社のDXの方向性を考える土台に

政府はデジタル庁の新設を進めることを打ち出し、IT基本法の改正を足がかりとして2021年中の設置を目指すとしています。具体的な法案はこれからですが、それを待たずとも、過去の経緯を振り返れば方向性が見えてきます。政府は「行政のDX」と「民間のDX促進」を視野に入れており、両者が互いに連携して進むことがデジタルの社会実装には必要ということが分かるはずです。

国が打ち出すビジョン・戦略には「未来の社会はどうなっているのか」「社会は何を必要とし、何を望んでいるのか」のヒントが詰まっています。それをベースに、「将来、自社はポジションに立っていたいのか」「社会の中でどのような役割を果たしていくべきなのか」について考えを巡らせてみてはいかがでしょうか。

畑邊 康浩

ライター:畑邊 康浩

編集者・ライター。語学系出版社で就職・転職ガイドブックの編集、社内SEを経験。その後人材サービス会社で転職情報サイトの編集に従事。
2016年1月からフリー。HR・人材採用、IT関連の媒体での仕事が中心。

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