DX推進担当者にとって技術的知見は二の次。課題解決への使命感を持つべし

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DXを導入するに当たっては技術と知見を持ったベンチャーとの提携が欠かせない。では、さまざまな業界とDXを進めるベンダーから見た場合、DX人材とはどうあるべきなのか。

データドリブンなDXを進める上で担当者やマネジメントに求められる知見・姿勢について、量子コンピューターによる最適化、AIによるデータ解析を可能にするクラウドプラットフォーム「MAGELLAN BLOCKS」(マゼランブロックス)を提供している株式会社グルーヴノーツのコンサルタント田中孝氏に聞いた。

──「MAGELLAN BLOCKS」がどのようなサービスなのかを教えてください。

MAGELLAN BLOCKSは、高度な量子コンピューティング技術やAI技術を、業務ですぐに使える形で提供するクラウドプラットフォーム(SaaS)です。MAGELLAN BLOCKSを使ってお客様の課題を解決するアプローチには、大きく3つあります。

1つ目が、量子コンピューターによる「業務の最適化」。生産計画や物流計画、人員計画など、考慮すべき条件が複雑すぎて頭を悩ます計画立案を、イジングマシンといわれる量子コンピューターが超高速計算で解決します。例えば、数百名規模のシフト作成など、本人の休暇希望や労働条件、スキルや人同士の相性などまでさまざまな要素を鑑みた上で最も良い答えを見つけ出すものです。

2つ目は、AIによる「予測」や「行動解析」。すでに500 以上の学習済みAIモデルがあり、需要予測や顧客分析、良・不良品分析、文書検索など、高精度のAIをノンプログラミングですぐに利用できます。

そして3つ目は、「ビッグデータの統合・分析」です。量子コンピューターによる最適化や機械学習による予測の前提として、業務の可視化がとても大切になります。さまざまなシステムに散在するデータを集めたり、組み合わせて加工したりと、業務を行う上で意味のあるデータに変換・見える化をします。

お客様の課題解決に向けては、問題の要素分解や整理、仕組みの検討、検証、業務の定着化などまで、コンサルティングの形で伴走するのが当社のビジネスです。

──導入・活用事例としてどのようなものがありますか。

幅広い業界/業種の企業にご利用いただき、事例は数多くあります。特に、いまお問い合わせいただくことが多いのが、量子コンピューターを活用した事例です。

これまでAIで「予測」をしていたとして、次に問題になるのは、「その予測に対してどうするか」ということです。例えばコールセンターの入電数予測で、「この日は電話が100件かかってくる」という結果を得られたとしたら、その電話を受ける体制としてはオペレーター何人をどの時間帯にどの役割でアサインするかを考えなければなりません。そんな時に、オペレーターのAさんは午前休で、Bさんは連日勤務になる、Cさんはメール対応に入ってほしい、といったさまざまな条件を満たした上で、対応件数を最大化する、人件費を最小化するなど事業運営上の目標値を加味した最適シフトを高速に自動で組むことができる。最適な人員配置で業務効率や生産性の向上を支援するのが、MAGELLAN BLOCKSです。

この「AIによる予測+量子コンピューターによる最適化」の事例として、三菱地所のケースを紹介したいと思います。

事例 廃棄物の発生量の予測と収集運搬業務の効率化の事例:三菱地所株式会社

三菱地所より、丸の内で都市活動の最適化を図る取り組みはできないかと当社にお声掛けいただいたことがきっかけです。同社のサステナビリティ経営やSDGsの一つにあるCO2排出量削減に向けた試みとしても、また社会インフラとして重要だが課題も多いテーマとして、廃棄物処理を対象に取り組みを開始しました。

三菱地所は大手町・丸の内・有楽町地区にビルを保有していますが、ごみの管理や収集はそれぞれのビルごとの管理となっています。そこで、「街」の単位でごみを効率的に収集する方法を解析することで、業務自体の効率化や収集車から排出されるCO2量の削減を目指すものです。

おおよそ3ヶ月間のプロジェクトの中では、まず対象となる26棟のビルの入居企業数やその業態、在勤者数などのデータを集め、MAGELLAN BLOCKSを使って現状の可視化を行うことからスタートしました。また、実際にごみ収集の現場を見させてもらった上で、廃棄物処理事業者からごみの種類、量、回収の頻度や回収ルート、現場での働き方などに関するデータを集めて現状分析を行いました。

次のステップは、集めたデータをもとにビルごとに出るごみの量を種類別に予測することです。予測精度はごみの種類によっても違ったのですが、可燃ごみの予測モデルの精度は94%という高いものができました。

そして、ごみの発生量が予測できたら、今度はごみを収集運搬する業務をその発生量に応じて最適化すること。例えば来月の1日、何キロの可燃ごみがどのビルで出るという予測値が出ましたので、その条件だと何台のごみ収集車で、どのルートで回ると最も効率よくごみを収集し切れるのかを量子コンピューターで高速計算したところ、月間のごみ収集車の総走行距離を57%も減らせるというシミュレーションが算出されました。

──MAGELLAN BLOCKSを活用する上で、ユーザーの側で持っておくべきAIや量子コンピューターに関する知識、必要な資質などはありますか。

前提として、お客様が最初に当社に問い合わせいただく時の担当者の方は、「DX推進室」のような部門や研究開発部門の方が半分くらいで、残り半分は事業部門の現場の方です。

ただどの部門の方であっても、必ずしも技術的なことを分かっている必要はないと思います。技術的な知見よりもまず、何が事業のコンピタンスなのかをしっかり捉えていること、それから戦略や現場の業務を深く理解していることのほうが、ずっと重要です。

加えて、課題解決の使命感を持っていることも大事です。何がどうなると成功で、何が結果として不足しているのか、「ビジョン」を明確に持っていていただければ、プロジェクトがうまくいく可能性は非常に高いと思います。

逆に、特定の技術や手法にこだわり過ぎると、進めるのが難しくなる場合もあります。なんとなく「シフト最適化をしたい」というお問い合わせをいただいても、課題を因数分解してひも解いてみると、実は量子コンピューターを使わずともデータ解析・可視化で事足りたというケースもありますから。

もちろん担当者の方が技術や現場の業務に明るくないことが多いですし、試行錯誤をする上で当てが外れるのはあり得ることです。ただ、その時に「シフト最適化がしたかったのに…」と考えるか、「想定とは違ったが、課題解決ができてよかった!」と思えるかの違いはあります。「課題を適切に解決すること」にスコープできる方とは、その先のフェーズや業務定着化も自然と上手く行きます。

例えば量子コンピューターマシンを扱う上では、専用のイジングモデルの構築や物理学上の数式の作成などの専門の技術が求められます。ただ、これらはソリューションとしてMAGELLAN BLOCKSが提供していますので、一から開発する必要はありません。そうなると、技術の基本的な構造や得意・不得意といった価値がわかって、自社の課題を解決するテクノロジーサービスとして適しているかをきちんと検討できるかどうかだと思います。大切なのは、技術は手段であり、それ自体は目的ではないということです。

──お客様とのプロジェクトはどのように進めていくのでしょうか?課題にもよると思いますが、典型的なパターンがあれば教えてください。

AI予測のプロジェクトであれば、5回ほどのセッションで、プロジェクトを完結して、実業務へ運用・定着化を目指すこともできます。ただ、状況に応じて進め方はフレキシブルですね。

初回のキックオフでは、As-Is/To-Beはもちろん、プロジェクトの目的を言語化して明確にし、ゴール設定をします。また、プロジェクトが終わった3カ月後、さらに1年先に「こう状況になっていたい」といった実現したい未来を考えていただき、認識合わせをします。

それから、AI予測に必要となるデータの確認や分析、ハンズオンなどでMAGELLAN BLOCKSの使い方をレクチャーします。お客様ご自身でも予測モデルを作成いただき、当社で評価や改善のアドバイスなどをした上で、最後に、目的を達することができたか、ゴールに到達できたかの確認を行い、実業務への運用支援に向けたフェーズへと進んでいきます。その際は、運用の仕方だけでなく、お客様の業務システムに連携するデータフローを構築して、業務の自動化を図ったりダッシュボード化したりするなど、さらに業務効率を高める取り組みもご提案します。

どのプロジェクトでも、大事なのは初回のキックオフです。必ず「お客様の環境を見せてください」とお願いしています。新型コロナの時期でそれも難しくなってきてはいるのですが、それでもできるだけ、工場での業務が対象になるならその工場内の様子を動画で見せていただくとか、現場の方に、現場の雰囲気はどうか、どういうところに本当に困っているのかなど、踏み込んだヒアリングをします。

担当者の方が現場を把握しているとは限らないので、このステップは重要です。例えば、量子コンピューターが導き出すシフト表が、運用に適するシフトかどうかといった検証は、現場でシフトを組んでいる人にしか判断がつかないからです。

本質的な課題に取り組むため、その一歩として「新しい技術をとりあえず試してみよう」というのも間違いではないのです。ただ、本気の結果を求めるからには、プロジェクト体制をしっかり整えることや業務上のゴール設定が必要ということです。

──DXを推進しようとする企業の経営・マネジメント層に求められる考え方や姿勢といったものがあれば教えてください。

先ほどもお話ししましたが、慣例や単一の技術にとらわれないこと。データ活用を進めるにも、データがありったけあれば良いというわけでは決してなく、データをどのような切り口でみるか、着眼点によって今あるデータから課題解決のアプローチを図ることもできるわけです。そして、DXだ、デジタル化だといっても、アナログな部分が完全に無くなる、無視できるわけでもなく、それを踏まえた変革が必要です。その上で、「この業務プロセス改善で余剰在庫の発生を○割以下に抑える」「トラックの積載率を○%向上させる」「人の配置を見直し、残業時間の発生をこれだけ押さえる」といった具体的なテーマや目標となるKPIを設計して明文化すると、担当者の方もやりやすいと思います。

テクノロジーを使うのはあくまでも人であり、マネジメントが「この課題を改善していこう」という「本気」を関係者に見せることが望ましいのではないでしょうか。

 

インタビュイー

田中 孝 氏

大手電気メーカー系SI企業に入社し、様々なプロジェクトや新規事業・インキュベーション活動を経験。組織や自社プロダクトへ企画開発からより深く関わりたくグルーヴノーツへ入社。

 

グルーヴノーツ
グルーヴノーツは、「豊かで人間らしい社会の実現に貢献する」ことをビジョンに掲げ、多様な価値観をもとに社会/人の未来の可能性や豊かさを広げるためのテクノロジー活用を支援しています。いま、社会が抱える課題は、個々の企業が抱える課題の集積値として反映されたものでもあります。だからこそ社会課題に向き合い、人間の真の豊かさを支えるテクノロジーと着想の力で複雑な問題構造を紐解き、本質的な課題解決に取り組んでいきます。

越智 岳人

インタビューアー:越智 岳人

編集者・ジャーナリスト。現在はフリーランスとして技術・ビジネス系メディアで取材活動を続けるほか、ハードウェア・スタートアップを支援する事業者向けのマーケティング・コンサルティングや、企業・地方自治体などの新規事業開発やオープン・イノベーション支援に携わっている。

畑邊 康浩

ライター:畑邊 康浩

編集者・ライター。語学系出版社で就職・転職ガイドブックの編集、社内SEを経験。その後人材サービス会社で転職情報サイトの編集に従事。
2016年1月からフリー。HR・人材採用、IT関連の媒体での仕事が中心。

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