企業イベントはDX化するのか—CESオンライン化から見るイベントの未来

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2021年の開催を全てデジタルに移行すると発表したCES(画像出典元:CES)

米ラスベガスで毎年1月に開催されている家電・技術展示会「CES」が2021年はオンラインのみでの開催を発表しました。新型コロナウイルスの影響と言ってしまえば、単純すぎる話題にも見えますが、そうとも限りません。

「CESに行けば、1年間のテクノロジートレンドがわかる」と言われるように、世界各国の大企業からスタートアップが集います。企業による展示だけでなく、世界各国のビジネスリーダーが登壇するカンファレンスが開催され、プレスだけでも毎年5000人以上が参加するなどメディアの注目度も高いのが特徴です。

また、期間中は周辺のホテルで招待制によるイベントや商談会も開催され、街全体がCES一色に染まります。CESのようなイベントは直接製品に触れる機会や、情報収集し商談するなどのフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが欠かせません。そうした面ではオンライン化はCESに参加するメリットが大きく損なわれる可能性もあることも否めません。

しかし、こうした変化はむしろ歓迎すべきものであり、一人でも多くの人が、これまでと同じように参加することでイノベーションが起きる可能性を秘めています。

CESは有料イベントで、先行予約で入場料のみであれば100ドル(約1万円)で済みます。但しカンファレンスは別料金となっており、最大1400ドル(約15万円)かかります。また、日本からの参加となると往復の飛行機代でエコノミークラスでも25万円程度、更にホテル代は世界各国から参加者が集まるということもあり、1泊あたり平均400ドル(約4.2万円)程度かかります。

現地での滞在にかかる費用も勘案すると一人につき70〜80万円程度は見ておいたほうが良いでしょう。しかし、オンライン化することによって、こうした移動コストや滞在費が大幅に抑えられます。仮に参加チケットが据え置きであれば、かなりリーズナブルに世界最大規模のイベントにアクセスできるようになります。

CES2021ではメイン会場である「ラスベガス・コンベンションセンター」の増築が終わり、東京ドーム約6個分の会場を地下トンネル高速交通システムが運行するというプランが発表されていました。デジタル化は主催者にとって苦渋の決断だったに違いありませんが、世界最大規模のビジネスイベントのデジタル化が成功すれば、企業のプロモーションにも大きな影響を及ぼす可能性があります。デジタルイベント元年とも言える今から、その可能性や課題をいち早く把握しておくことも企業のデジタル担当者にとっては重要です。

オンラインイベントの課題

イベントのデジタル化においては3つのポイントがあります。

一つはオフラインで提供できていた体験価値を損なわずにユーザーに提供できるかという点です。言うまでもなく展示会では製品を実際に手に触れるハンズオンや、イベントやミートアップなどでの偶発的な出会いや交流といったインターネット上には無い価値があります。

こうした体験をオンラインにそのまま持ち込むことは難しく、現在も多くのイベント主催者が暗中模索しているのが実情です。特にコミュニケーション面ではN対Nでのコミュニケーションを円滑にするソリューションが無いのが致命的です。オンラインミーティングツールを複数名で使った人なら身に覚えがあるかもしれませんが、複数人でのミーティングでは一人の発言者の話を他の参加者が黙って聞くという構図になりがちです。

そのため、出展企業との商談は基本的にアポイントメントを取り、1対1で通話するのが前提になるため、どれだけ多くの人と接触できるかが出店者・来場者双方にとってのポイントとなるでしょう。

また、大企業と比べて集客力の低い中小企業やスタートアップがデジタル化のメリットを受けられるかもポイントです。ブランド認知が進んでいない企業は、ウェブ上ではPRしきれない技術や製品を会場で見てもらえる場として展示イベントを活用してきました。名前は知られていなくても、ユニークな製品で参加者をひきつけ人だかりができれば、さらに人が集まるという効果もオンラインでは今のところ見込めません。
こうしたハードルを乗り越え、出展者・参加者ともに一定の評価が得ることがデジタル化の鍵と言えるでしょう。

最後に通信インフラの課題も避けては通れません。世界各国から同時にアクセスが集中するデジタルイベント環境の安定化は満足度を測る上でも重要な指標です。
カンファレンスが途切れた、商談でフリーズした、サイトがダウンしたというトラブルを事前に予測することは完全にはできません。

オンラインの導入は不可逆的に進む

筆者は新型コロナウイルスが鎮火したとしても、イベントのオンライン化は一定数進むと考えています。その理由はコストと収益面にあるからです。

オンライン化すれば会場にかかる費用が大幅に抑えられます。CESのような街を挙げての巨大プロジェクトともなれば、オンライン開催のコストもかかります。しかし、ホテルを片っ端から貸し切り、東京ドーム6個分の会場を抑えるよりは遥かに安く運用できるでしょう。

また収益面でもオンライン参加によって渡航やブース設営の必要がなくなったことで、参加のハードルが大きく下がり、出展者増加による収益増が見込めます。

イベント主催者側もこれまで全くデジタル化していなかったと言うわけではありません。CESではカンファレンスのライブ配信やアーカイブ配信をしていましたし、出展企業との商談をオンラインで予約できるサービスを提供している展示会は海外では少なくありません。

仮に2022年以降にイベントが再び会場開催に戻ったとしても、オンラインで低コストに参加できる出展者・参加者の需要をカバーすべく、ハイブリッドで開催することでイベントの規模と収益を更に拡大することも十分考えられます。マーケティングコストをシビアに見る大企業が「オンラインでも十分」と判断する傾向が進めば、その流れは不可逆的に進むでしょう。

デジタライゼーションからDXに進むための道筋

現時点では単純なデジタライゼーション(デジタル化)に向かって歩み始めたCESですが、そこから更にDX化する可能性はあるでしょうか。

結論から言えば筆者はあると考えます。まず、2021年からのデジタル化によって、これまでデータ化されていなかった参加者の行動データが取得できるようになります。ブースごとのアクセス数や商談数、カンファレンスではリアルタイムな反応だけでなく、ソーシャルメディアとの親和性も更に深まるでしょう。出展企業と来場者の属性データと行動データを学習させることによって、自力ではなかなか見つけられない有望な企業をレコメンドすることも容易に実装できます。

また、定量的なデータだけでなく、ユーザーの声や表情などを解析して商談に対する満足度を測ることも可能になります。既に画像を活用した表情解析や音声を使った感情解析を使ったAIは既にいくつかの企業がサービスとして提供し、対面ビジネスの現場やコールセンターなどで導入されています。

こうしたテクノロジーを活用することによって、オフラインのイベントでは得られなかった価値を参加者に提供できるようになり、その満足度が高ければイベントにおけるオンラインの価値は一層高まるでしょう。

こうしたテクノロジーを有効化させるためには大量のデータが必要になりますが、CESだけでも20万人弱の来場者がいますので、サンプル数としては十分な数が見込めます。

オンライン化に向けてマーケターがすべきこと

イベントのオンライン化に向けてビジネスパーソンがするべきこととは何でしょうか。それは一言でまとめてしまえば、参加することに尽きます。

先に挙げたとおり、オンライン化によってCESに限らず移動や滞在にかかる費用が無くなり参加コストは下がっています。これまで費用がボトルネックとなっていた人にとっては、今回が参加するチャンスと言えるでしょう。

また、出展者側として検討していた人にとっては従来のオフラインイベントと比較した上で、どういった条件が揃えば自社にメリットがあるのか、参加を通じてリサーチするには最適なタイミングです。

大企業からスタートアップに至るまで、各社がオンラインイベントに対して試行錯誤している段階です。出展者としても、成功した点は他のオンラインイベントにも水平展開させ、失敗した点は課題と捉えてノウハウを蓄積していくことも重要です。いち早く出展者として参加する場合には、これまでよりも低いコストで大きなベネフィットが得られるでしょう。

そして、参加することを通じて主催者側はデータを蓄積し、イベントのデジタライゼーションを最適化しながら、着実に新たなイベントのモデルを確立していくことでしょう。そのときに初めて展示イベントというマーケティングツールのDX化のモデルが私達の前に姿を現します。

デジタライゼーションの本質は低コスト化と合理化にあります。その次のステップとしてDX化に踏み込んだ際に、あなたの企業にデータやノウハウは蓄積されているでしょうか。

越智 岳人

ライター:越智 岳人

編集者・ジャーナリスト
現在はフリーランスとして技術・ビジネス系メディアで取材活動を続けるほか、ハードウェア・スタートアップを支援する事業者向けのマーケティング・コンサルティングや、企業・地方自治体などの新規事業開発やオープン・イノベーション支援に携わっている。

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