激動の時代における「持続可能な働き方」とは——対談:守屋実氏×澤円氏

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昨今、「VUCA」(ブーカ)という言葉をよく目にするようになりました。

改めて説明すると、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの単語の頭文字をとった言葉で、変動性が高く、不確実で複雑、さらに曖昧さを含んだ時代や状況を指します。

まさにVUCA時代の真っ只中にある現代において、ビジネスパーソンはどのように持続可能なキャリアを築いていけばいいのでしょうか。そして、どのようなワークスタイルを選択したら良いのでしょうか。それには、まずは「働き方」の選択肢を知り、自分にとって何が最適なのかを考える必要があります。

 

元日本マイクロソフト業務執行役員で、現在は独立して、JACDigitalのアドバイザー活動をはじめ様々な会社の顧問を行っている澤円(さわまどか)氏と、数多くの新規事業立ち上げを行ってきた守屋実(もりやみのる)氏が、それぞれの体験や決断に至る過程なども踏まえて、オンラインで対談した様子をレポートします。

 

※本記事は2021年8月にJACデジタルが開催したオンラインイベントを一部抜粋・再構成したものです。

 

目次

 

 

講師

新規事業家
守屋 実氏

1992年ミスミ(現ミスミグループ本社)入社、新規事業開発に従事。2002年に新規事業の専門会社エムアウトをミスミ創業者の田口弘氏と創業、複数事業の立ち上げおよび売却を実施。2010年守屋実事務所を設立。新規事業創出の専門家として活動。ラクスル、ケアプロの立ち上げに参画、副社長を務めた後、博報堂、サウンドファン、ブティックス、SEEDATA、AuB、みらい創造機構、ミーミル、トラス、JCC、テックフィード、キャディ、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会、JAXA、セルム、FVC、日本農業、JR東日本スタートアップ、ガラパゴス等の取締役などに加え、内閣府有識者委員、山东省人工智能高档顾问を歴任。2018年にブティックス、ラクスルを、2ヵ月連続で上場に導く。著書に『起業は意志が10割』。

 

株式会社圓窓
澤 円氏

株式会社圓窓 代表取締役。元日本マイクロソフト業務執行役員。
現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。
2021年4月より株式会社JAC Recruitment デジタル領域アドバイザーに就任。

 

 

1.VUCA時代を生き抜くために必要なこと

——本日はお二人のご経験を踏まえ、リアルなお話を伺えるのを楽しみにしております。早速ですが、「VUCA時代の持続可能な働き方」について、それぞれご意見をお聞かせください。

 

澤氏 「持続可能な働き方」という位置付けを「働き続けなければならない」とすると、苦役のようで、つらいものになります。しかし「自己実現を続けるために働く」と考えると、喜びの時間が長く続くといえます。
LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 』(東洋経済新報社、2016年)によれば、産業革命以前の英米では誰しも80歳くらいまで働き続けていたようです。それが産業革命によって様々なことが便利になり、人権意識の高まりや労働基準の制定によって労働時間が短縮しました。それがまた今度は人々の寿命が延びたり、年金制度などが立ち行かなくなったりで、長く働き続ける必要が出てきています。

昔に比べて今は情報が多く、仕事を選ぶ手段にも恵まれています。ですから、長く働くにしてもやりたい仕事を続けられるのではないかと思っていて、そこに自分の身を置けるか否か——つまり、働き方というよりも、仕事選びや「自己実現としての仕事」を定義できるのか否かが鍵ではないかと思います。

 

守屋氏 キーワードを挙げるとすれば、「多様性」と「意志」かと思います。

澤さんのお話と重なりますが、長く仕事を続けるなら、何かしら好きだとか得意だというエンジンがないとキツいですよね。短期間なら苦行もいいですが、それが人生でずっと続くのは誰でも嫌だと思います。みんなが長く働き続ける必要があるなら、各々が好きなことや特技を生かすべきあり、自ずと世の中は多様性を受け入れる必要が出てきます。

また、多様な世の中では、他人や社会より「あなたの意志はどうなんだ」が問われます。大昔は不動の大きな目標が定まっていて、一致団結してみんなでそこを目指せば良かった。つまり個人は企業の歯車として、決まった通りに働けば良かったのだと思います。でも現代のように変化のスピードが速くなると、個々人で身軽にそれぞれの目標へ向かって好きに動こう、となる。みんながワッとそれぞれ走っていく中で、意志を持たずに漠然としていると、踏み潰されてしまうかもしれないーーそういった考えから、この二つをキーワードに挙げました。

 

2.人生100年時代のキャリアデザインとは

——人生が100年続くと言われる時代に、今までの終身雇用や定年60歳が通用しなくなり、働き方も多様化して選択肢が増え、キャリアデザインが不安な方も多いかと思います。
ワークはもちろん、ライフも充実させたい時、どのようにキャリアを構築するべきでしょうか。

 

守屋氏 会社のプロから仕事のプロになることを意識するべきでしょう。
これまでの就職って新卒で勝ち取るもので「勤め上げる」なんて言葉もありました。しかし、就職はそこまで大袈裟なものではなくなりました。

現在、日本の会社の寿命は平均で23〜25年です。新卒の22歳で出来立ての会社に入っても、46歳ごろに辞めるかもしれない。46歳と22歳の新卒と並んで仕事を探す時、特定の企業でしか通用しないプロとであれば不利な状況もある。だからこそ、普遍的な「仕事のプロ」であるべきでしょう。

 

澤氏 私の場合は「全てのビジネスが社会貢献である」という前提を持っているので、「どのように社会貢献していくのか」の選択が仕事選びだということになります。
また、一見エコシステムに見えても、関わる人を搾取する一方でまったく社会貢献にならないシステムもあるので、いかに自分の人生が搾取されない状態を作るのかも重要です。
守屋さんが「意志を持つ」と仰っていたように、「自分はどのように社会に対して貢献したいんだっけ?」と考えて、そこから逆算して仕事を選ぶ方がベターですし、まずはその問いの答えを言語化する必要があります。そのためには転職エージェントのキャリアコンサルタントに手伝ってもらってもいいでしょう。自分も他人も納得させられるような言葉に自分のキャリアデザインを落とし込むのが、すごく重要だと思います。

 

——補足でお伺いしたいのですが、「人生100年時代」は今までより長い目線で考えた中長期的なキャリアデザインが必要になるかと思うのですが、その場合は考え方も変わっていくのでしょうか。

 

澤氏 100年とは、単純に生命活動を維持できる期間のことではなく、健康で幸せな人生をなるべく長く過ごすことですよね。そのためにはストレスはできる限り少ない方が良く、やりたくないことをやらない方がいいーーつまり社会貢献を目指しつつも我慢は一切しない。自分勝手、自己中心的に生きる力が求められてきます。
自分勝手でありながらも社会貢献度が高く、人類というコミュニティからウェルカムされるような生き様をどう描くのか、それがこれからのキャリアデザインに必要でしょう。

 

3.多様化する働き方の実態と、成功に向けたヒントとは?

——事前に参加者の方から頂いた質問です。
「正社員と副業の両立、業務委託といったワークスタイルを私達はどう選ぶべきか、そしてそれぞれにおいて、成功するための共通項はあるのでしょうか?」

 

澤氏 今列挙された雇用形態は、あくまで他の人が作ったルールですよね。正社員と業務委託の線引きも、どちらかに優劣があるものではないし、私自身も契約形態を気にしていません。
他の人たちが決めたルールに自分の価値観を合わせて、その土俵で上手くやれるかどうか気にする必要はないと思います。

重要なのはスキルやノウハウではなく「タグ」なんです。自分になんらかのキーワードをタグ付けて、「このタグといえばあの人」と純粋想起してもらえるかどうか。私のタグをアウトプットして、気づいてもらえるようにどんどんアピールすれば良いと思います。

 

守屋氏 僕のタグは「#新規事業」ですね。ただし世の中にはたくさんの新規事業家がいるので、記憶に残るよう、さらに分かりやすいタグで示すということですよね。
質問された方は、今の働き方に不安を覚えているのかなと感じました。もしそうならば、悩んでいても何も解決しないので、一回くらい業務委託など、他の働き方を経験してみたらいいと思います。そうすると、業務委託のほうが向いてると気づくかもしれないし、起業しちゃうかもしれない。逆に今の会社が良かったと思うかもしれない。

そういう出来事は動いた時に起きるのであって、不安を抱えたまま漠然と時間を過ごしていては何も変わりません。
僕は「人間は考えたようには成らず、行ったように成る」という持論を持っています。ずっと考えていたら考えるだけの人になって、何かチャンスがあっても一歩踏み出すことができなくなると思います。そうならないように行動したほうがいいと思います

 

——わかっていても難しい……という悩むこともあると思うのですが、何か一歩動き出すためのコツはあるでしょうか。

 

澤氏 ビジネス・ブレークスルー大学の大前研一さんいわく、人生を良くするためには三つの方法しかないそうです。「時間配分」、「付き合う人」、「住む場所」を変えること。
そして、最も意味がないのが「決意を新たにする」こと。守屋さんの仰る通り、頭の中で思うだけはまったく意味がないと大前さんは断言されています。これには私も賛同ですし、三つは全てアクションなので、具体的な話にもつながります。
例えば、僕は時間配分を変えるためにマイクロソフトを辞めました。ものすごく良い会社だったし、長く勤めることに苦痛もありませんでしたが、時間配分を変えようとすると私の持ち時間に対して会社の占める割合が大きすぎたので外しました。そうすると必然的に付き合う人も変わったし、これはオプションですが、住む場所も変えてみたらこれまた面白いことが起きた。そういうアクションをとにかく手っ取り早く始めてみるのがいいでしょう。

 

4.多忙を極める両氏にとってのワークライフバランス

——働き方が多様化し、正社員の他にも復業や業務委託が可能になり、リモートワークで多拠点生活を送ることもできます。生き方も多様化して、今まで以上にワークもライフも考えることが必要不可欠になってきたかと思いますが、お二人はワークライフバランスについてどのようにお考えでしょうか。

 

守屋氏 今年に入って元旦から1日も休んでいません。労働環境としては真っ黒に見えるかもしれません。しかし、僕は労働していると思っていません。今もこうして澤さんとお話しして「この話めちゃくちゃ面白い、使えるなぁ」と思ったりしている時間は、労働というより活動時間という感覚です。そう思うと年初から活動だけ続けて、1日も働いてないともいえます。
だから休みなく働いていても、僕の中ではしっかりワークライフバランスが取れていると思っている。これはちょっと極端な事例かもしれないですが、好きとか得意とかをエンジンに働き始めると、多かれ少なかれそういう領域に入っていくのではないでしょうか。
9時から18時の労働を強いられていると苦しくなってきます。そうじゃない感覚になると、9時から18時もそれ以外も、あんまり変わらなくなってくると思います。

 

澤氏 私もワークライフバランスという言葉に対して好き・嫌いではなく、あまり理解ができません。ライフ(人生)とワーク(仕事)と別のモノなのでしょうか。

別だと感じるなら、その人にとってその仕事が楽しくないのか、あるいは会社や仕事にライフの要素を見せてはいけないと思っているのかもしれません。その価値観がガラッと変わる良いタイミングが今だと思います。

今日も私はオンラインで登壇していますが、多くの人にとって仕事が自宅にやってきている状況が来ています。「Work at home」でライフの領域に仕事が入り込み、普段着のTシャツやパーカーでオンラインミーティングに出るのが当たり前になったし、会話の最中に飼い猫が目の前を横切ったり、良い事を言っている時に限って宅急便が来たりしてしまう。
仕事とプライベート、全てがモザイク模様に混ざるのがノーマルスタンダードになりつつあるならば、それに乗じてみるのはどうでしょう。ワークとライフを区分せず、全てが活動だという守屋さんのマインドセットはすごく良いなと思います。

 

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