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DX時代のエンジニアは現場と苦楽を共にできる人であるべき
対談:カインズ池照直樹氏×澤円氏

公開日:2024/01/31 / 最終更新日: 2024/03/18

DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性があらゆる業界で叫ばれるなか、DXを社内で推進する人材の需要が高まっています。

またコロナ禍によって、個人の働き方や暮らし方にも大きな変化が訪れました。このような流動的で複雑な時代に求められるキャリアデザインとは、どのようなものなのでしょうか。

デジタル戦略の強化を目的としてエンジニアを大量採用するなど開発を内製できる組織づくりを進めている、カインズ デジタル戦略本部本部長 池照 直樹(いけてる なおき)氏と、元日本マイクロソフト業務執行役員でJAC Digitalアドバイザーやセミナーを通じてデジタルの普及活動をする、株式会社圓窓代表取締役社長 澤 円(さわ まどか)氏にお話をうかがいます。

※本記事は2021年6月に行われたセミナーの内容を再構成したものです。


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講師

池照 直樹

池照 直樹氏

株式会社カインズ デジタル戦略本部 本部長
上智大学理工学部卒業。
日本コカ・コーラ、日本オラクル、ミスミを経て、2006年に起業。
アメリカマイクロソフト、エノテカ執行役員、ゆこゆこホールディングス代表取締役 社長執行役員を歴任。
2019年7月より株式会社カインズ デジタル戦略本部 本部長に就任。

澤 円氏

澤 円氏

株式会社圓窓 代表取締役。元日本マイクロソフト業務執行役員。
現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。
2021年4月より株式会社JAC Recruitment デジタル領域アドバイザーに就任。


グローバルな環境でコミュニケーションやキャリアの意識が培われた


澤氏:私と池照さんはマイクロソフト時代の同僚ですが、在籍当時一緒にイベントへ登壇したり、社内で顔を合わせれば挨拶をしたりする程度で、仕事上の接点はそんなにありませんでした。私は日本法人の所属、池照さんはアメリカ法人の所属という違いがあり、体験してきたことにも違いがあると思います。アメリカ本社に在籍しながら日本のカスタマーと関わるという環境を意識するかしないかで、学べることが全然違うと思うのですが、池照さんは両方の体験を転用するという意識を持ってキャリアを積んでこられていますね。

池照氏:本当にいろいろな勉強をさせてもらったと思います。
印象的だったのは、紳士であることを求められることでしたね。コンプライアンスの重視はもちろん、セクハラ・パワハラなどハラスメント防止、LGBTや宗教の違いにも徹底して気を配るので、社員同士であっても基本的に性別の話や出身の話、信仰の話もしません。
バックグラウンドの違う人たちと、バランスをとったコミュニケーションの取り方というものがあると学びました。余分な会話をしないからといって仲が悪いわけではなく、仕事のために集まった人たちがお互い快適に過ごすために必要なバランスだったと思います。

澤氏:最近になってようやく日本でも「ダイバーシティ&インクルージョン」が議論されるようになりましたが、ずっとそういう環境にいた身からすると「まだそこのレベルなのか」というギャップに驚くこともあります。逆に言えば、社内にさまざまな人がいて、さまざまな立脚点を持たないかぎり、なかなかそうした問題に取り組めないのだということも分かります。

池照氏:カインズではほとんどゼロの状態からデジタルの組織を作ったんですが、半数ほどが外国籍メンバーのチームになりました。あえて選んだわけではなく、「ホームセンターがデジタルなんて……」という先入観が無く、日本でもっと成功したいという意欲のあるエンジニアが集まった結果だと思います。
手を動かすエンジニアは海外ではすごく評価されるので、マイクロソフトには40代50代のスーパーエンジニアがゴロゴロいました。60代でもまだキャリアを積もうという人もいます。日本ではなかなかエンジニアであり続けるキャリアパスがなく、年代に見合った給与を求めると、エンジニアを続けることを諦めなければならなかったりします。経営側としてはそういう環境を変えていきたいと思いますね。

柔軟なキャリアを可能にするヒントは「チャーミングな人間性」


澤氏:私は自分で描いたキャリアパスというものがなく、ずっと行き当たりばったりでやってきました。過去の自分に褒めるところはほとんどないと思っているんですが、数少ない良かったところは、新卒で選んだキャリアがエンジニアだったことです。
経済学部出身で、なんの前提知識もないのにプログラムエンジニアになるなんて、世間一般的に考えるとバカみたいな選択に見えたと思うのですが、結果的にインターネット黎明期以前からプログラミングの世界に飛び込めたのは本当にラッキーでした。
コーディングがわかると、世の中のいろいろなシステムの基本的な仕組みについて想像がつくようになるので、社会情勢の変化や時代の要請を「エンジニア脳」で解析して、今の自分につながるキャリアを構築できたと思います。

池照氏:僕は学生時代に光の研究をしていたので、新卒でレンズのデザイナーとしてキヤノンへ入社しました。工場併設の研究所だったのでデザイナーも生産管理に関わり、そのつながりでコカ・コーラの生産管理へ転職しました。そこで生産管理・物流を基軸としたサプライチェーンマネジメントの最適化を行なっていたことから、次はオラクルに移って基幹システムのERPパッケージのコンサルタントと、数珠つなぎのようにキャリアが展開しています。
生産管理つながりでソフトウェア会社へ入社して、今度は社内登用でエグゼクティブアシスタントとして当時の社長の下へつき、自分の勉強だけでは追いつかないのでビジネススクールに通ったりして経営学を学びました。次にベンチャーファンドに携わりファイナンスについて学び、すると投資銀行から声がかかりーーこれらは狙ったキャリアではなく、入った会社で必要なことを身につけるべく努力した結果だと思います。

澤氏:つながりはすごく大事ですね。私は23年間マイクロソフトに在籍しましたが、組織内でいろいろな職種を経験して、さらにベンチャー企業の顧問をやらせてもらったり講師をやったりと、副業で外部との接点を作ってマルチキャリアを積みました。

池照氏:社外で上下関係のないパラレルな人間関係を作ることと、素直に耳を傾ける気持ちがあれば、なんでも吸収できると思います。昔、とある投資ファンドの方に「チャーミングな人間になりなさい」と言われたのが強く記憶に残っていて、チャーミングな人間とはなにかというと、「思わず助けたくなる人」なんです。

澤氏:欧米の首脳にインタビューしてきた編集者の方も、世界のトップには共通してチャーミングさがあるとおっしゃっていました。ちょっと抜けたところや人間臭さを見せて緊張を解いてくれる人の周りには、人が集まります。そうしてフランクに会話できると、結果的にさまざまな情報が得られるんでしょうね。

池照氏:Googleが重要視する「心理的安全性」に近い話ですね。できるオーラを出して人を威圧するよりも、紳士的に振舞って話しやすい状況を作る。なかなか難しいことですが、つんけんせず口角を上げて、声をかけられやすい人間になる努力をしたほうがいい。

澤氏:僕の場合は、失敗を隠さず自己開示するようにしています。あとは、分からないことは分からないと言うこと。そして素直に詳しい人に教えてもらいに行くと、「すごいですね!」と相手を褒めるチャンスが得られるんです。おまけに自分も賢くなれる。

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3.DX化は直接の目標ではなく手段


池照氏:今回は企業のDX化がテーマのひとつですが、実は僕がカインズへ入って最初に手がけたのはDXのことではなく、顧客戦略です。
まず僕らはどのような状態のどういったお客様にきてほしいのか、4象限のセグメントにマッピングしてストーリーを明らかにしました。さらにお客様を呼び込むツールを考え、オウンドメディアの立ち上げやアプリ開発、ECサイト流入拡大のためのWeb広告配信、どのようなサービスを提供すればサイトの会員が増え高頻度で利用していただけるのか戦略を立てました。そうして得られたデータを分析してMAシステムをつくり、更にデジタルマーケティングを強化しました。
だからカインズにDX化をやりにきたというよりは、マーケティングに基づいて収益性の見込める中長期的なプログラムを作り、実施していく過程がDX化になっている感覚です。

澤氏:私は元々カインズの大ファンですが、最近は「分かっている人がデジタル化をデザインしているな」と思います。どこを見てそのように感じるかというと、店員さんが汎用品のスマホやタブレットを使っていることです。
私も10年ほど前からさまざまな企業に「社員にスマホを使わせたほうがいい」とアドバイスしてきましたが、「お客様に遊んでいると思われる」と言って導入に進めないところがすごく多かった。カインズでは抵抗はありませんでしたか?

池照氏:導入計画が出た当初は社内でも戸惑いがあったようですね。でも結果的に、在庫管理や発注が手元のアプリで完結するようになると喜んでいただけましたよ。店員は全国に2万人いるので、事務所と店舗を往来したり、申請書を紙に印刷してハンコを押したりといった作業が少しでも減ると、実は経営インパクトも大きいんですよね。
汎用品であるAndroid端末を採用したのも、ユーザー人口が多いので、比例してAndroid環境で開発できるエンジニアも多く、開発にかかるコストが下がります。これはITに関することに限らず、インフラを選ぶときにはマスを取るのがいいと思います。

澤氏:サービス業である以上レピュテーションも大切ですが、本当にトランスフォーメーションを望んでいるなら絶対にやったほうがいい。遊んでいるとクレームが来たなら「いえ、遊んでいるわけではありませんよ」と説明すればいいですよね。
汎用品であれば、機器交換のリードタイムも少なく済むし、システムが古くなってもアプリをアップデートすればいいので端末ごと入れ替える必要がない。業務がストップするリスクやさまざまなコストを圧縮できて、いいことづくめです。

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IT開発の内製化は「ありがとう」を直接言える関係を生む


――池照さんはカインズのデジタル戦略本部を「エンジニアパラダイス」にしたいとおっしゃっていましたが、どんな組織づくりを目指していますか?

池照氏:元々カインズは伝統的な小売業の体系なので、基本的には店員さんが店長試験を受けて昇級し、お店で活躍していくキャリアパスが準備されています。一方、中途採用でプロフェッショナル人材を迎え入れるための給与体系や、エンジニアの柔軟な働き方を認める就業規則を短期間で導入するのは難しかったのです。その結果、エンジニアはカインズテクノロジーズという子会社で採用し、カインズに出向するかたちをとっています。

澤氏:なるほど、仕組みのハックですね。

池照氏:マイクロソフトも成果主義で、年次目標さえクリアしていれば毎日の働き方は自由でしたが、そうした働き方の多様化はいいことだと思っています。
現状チームの人数は100人弱になっていて、この2年間で僕が採用したのは60から70人ほどです。これだけたくさん人を集めたのは、ひとつは作るものがたくさんあるから。
リテールの世界はまだ多くが紙ベース、伝票ベースで動いているので、そこを改善すると大きなコストメリットがあります。それと、カインズは年間4600億円規模の売上がある企業なので、デジタルで小さな試みをして少し売り上げを伸ばすようなことをしてもあまり意味がないんです。それならば大きな目標に向けた大きな投資をしていこうという考えです。
――ひとつの部署だったデジタル組織が短期間で大きな集団になったわけですが、社内でエンジニアを直接雇って内製化して良かった点はありますか?

池照氏:今まで外部に発注していたアプリ開発を内製化して、俄然スピード感が増しました。外部発注が悪いわけではないのですが、別の会社同士で仕事をする以上、責任範囲はどちらにあるのか、明確に線引きしないとトラブルになります。契約関係の壁は絶対に越えられないので、用件のやり取りには必ずコミュニケーションコストが発生します。
その点、社内にエンジニアがいると、お互いに利害関係がないのでスムーズです。また成果物も80点の状態で一旦出して、フィードバックを受けながら100点に近づけていけます。通常のソフトウェア開発の受発注関係ではまず考えられないやり方です。
お互いに助け合い、頼りにしていることや感謝を直接伝えられるのでチーム意識も強まりました。今年は中国籍とフィリピン籍のエンジニアが社内表彰で社長賞を受賞し、すごく喜んでいました。外国に来て頑張って働いて、社長から表彰されるなんて滅多にない経験です。

澤氏:全国の経営者が聞くべきエピソードですね。過去にコンサルティングで携わった企業も社内システムを内製化していて、基本的にIT部門がなんでもやるという体制でした。文句も言われるけど、改善があると直接部署に電話がかかってきて「ありがとう、素晴らしい仕事してくれたね」と言われるそうです。クライアントやお客様との関係ではなかなかないことですよね。
内製化すると、エンジニアにとってちょっとした仕事でも喜ばれて、そして「ありがとう」と言われてモチベーションが上がるというエコシステムが回ります。だから私はコンサルタントとして入ったプロジェクトでは「内製化しましょう。そして苦楽を共にしましょう。」と勧めています。

池照氏: 「苦楽を共にする」、ぴったりな言葉ですね。契約関係にある会社同士が苦楽を共にするわけにはいかないので、それを超えたチームになるには内製化がいいのかなと思います。

キャリアの新たな掛け合わせを探り、終わりなきチャレンジを楽しむ


池照氏: 今後も組織は拡大していく予定ですが、人材に求めるのは、スキルや能力の高さ以上にチームで働くことの重要性を理解していることです。興味の範囲を広く持ち、話しかけられやすく口角を上げて、コミュニケーションを大事にできる人。先ほども話したように、チャーミングであれば人から物事を吸収する機会も増えるので、成長速度が違います。これからキャリアを築く人には、特に意識して欲しいですね。

澤氏: 池照さんがおっしゃっていたように、さまざまな繋がりでキャリアができていくので、外部にある色々なものに興味を持たないとアンテナが鈍ります。
エンジニアはコードさえ書いていればいいという時代ではなく、プログラミング言語もどんどん新しいものが出てきます。そうした環境で自分の価値を高く保つには、常に自分の持っている技術と、全く違うものを掛け合わせるというマインドセットが大事だと思います。コーディング+経営でもいいし、JIS規格に誰よりも詳しいといった入り口でもいいでしょうし。

池照氏: エンジニアが料理をしてもいいし、海や山にでかけてもいい。そのなかで仕事に活かせる発見をすることもあるし、四六時中仕事のことを考えて公私の境界線が曖昧になってしまうような時期には、生活のバランスをとる方法を学ぶ機会にもなると思います。仕事だけではなく、休日にも学ぶという意味でもアンテナを広げることですね。

澤氏: 自分を「イケてる」と思えるかどうかは結構大事です。「ありたい自分」でいられる時間が長いほど人生はハッピーということなんですが、仕事は人生の時間を相当使うので、キャリアの選び方という観点でも、働いているときの自分を肯定できるかどうかで選べばいいと思います。
例えば失敗しないような簡単な仕事を繰り返すだけの状態で自分を肯定するのは難しいのではないでしょうか。多少失敗のリスクがあっても、ある程度難しいことに挑戦している方がイケてるし、自分に飽きないと思います。
それでなくてもコロナ禍で世の中にゲームチェンジがかかり、今までのやりかたが急に通じなくなったり、新しい環境に適応できず、最悪今までのポジションから放り出されたりするかもしれない状況です。自分がハッピーでいられるのはどういう状態のときなのかを理解して、常にそうあり続けられるようにいろいろなチャレンジをしていくべきですね。

池照氏: チャレンジを続けている状態でないと、おそらく今できない仕事はずっとできないままですよね。30歳の頃の僕と53歳の今の僕は別人だと感じるのですが、単純にスキルアップした感覚ではないんです。必要に迫られて知らないことを勉強して、だんだん知識の幅が広がり、できることが増えていきました。すると自分の得たスキルと環境が繋がって、キャリアの数珠つなぎが起こってきたので、特に今のような変わりゆく世の中であればあるほど、ゴールのないチャレンジをし続けないといけないんだろうと思います。


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ライター

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越智 岳人

編集者・ジャーナリスト

技術・ビジネス系メディアで取材活動を続けるほか、ハードウェア・スタートアップを支援する事業者向けのマーケティング・コンサルティングや、企業・地方自治体などの新規事業開発やオープン・イノベーション支援に携わっている。。

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