コロナ以降、SDGsとDXの関係はどう変わるか—最新事例から見たSociety 5.0の可能性

Pocket

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、あらゆる社会活動や経済活動に影響を及ぼし続けています。
その多くは望ましくない方向への変化であり、とりわけ観光業やサービス業への悪影響は甚大です。

一方で接触を避け、労働集約型のビジネスを転換する動きが活発化したことは無視できません。
オンライン診療やロボットの活用、リモートによる教育インフラの整備など、数年をかけて実現するはずだった未来が1年で実現した例も少なくありません。

そこでコロナ以前からの社会課題として注目されていたSDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)はコロナ禍によって、どのように変化したのか。
そして、DXは持続可能な社会にどのような貢献をするのか、各社の事例も踏まえながら紹介します。

ダボス会議が定義した「グレート・リセット」

官民共同で世界情勢の改善に取り組む国際機関である世界経済フォーラムは2021年5月にシンガポールで開催を予定している年次総会のテーマを「グレート・リセット(Great Reset)」としました。

コロナ禍によって従来の社会システムが深刻なダメージを受けたことにより、多くの社会システムは持続可能性に欠いたものであり、抜本的な改革が必要だとダボス会議主宰のクラウス・シュワブ教授は自身の著書「グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界」(日経ナショナルジオグラフィック社刊)で指摘しています。

そうした状況の変化を踏まえ、公平かつ自然を重視した未来を築くために現状を見直そうと訴えるのが、グレート・リセットの主旨です。

このコンセプトはコロナ禍以前から国際的に議論されていたSDGsの考えと密接にリンクします。
SDGsは2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すことを目的としています。いずれのゴールにおいても、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことをうたっています。

 

キャプション:SDGsで定義する17の社会課題(出典:外務省

コロナ禍によって、SDGsに起きた変化

新型コロナウイルスの第一波を受け、世界中でロックダウンや行動制限を強いたことにより、SDGsの中で定義するゴールにも大きな変化がありました。

言うまでもなく雇用や貧困、飢餓問題はコロナ禍によって多大な悪影響を被りました。
また、孤立によるメンタルヘルスへの悪影響や政治上の分断がより顕著になった国においては、「平和と公正をすべての人に」というテーマも実現可能性が大きく低下したと言えるかもしれません。

一方でコロナ禍によって、それまで存在していたテクノロジーの点群が結ばれ、解決に向かって大きく前進した社会課題もあります。日本での事例を挙げると保健・医療では厚生労働省が一時的に規制緩和したことよって、オンライン診療を導入する医療機関が急増しました。

この分野で大きく貢献しているのが、医療×DXの事業を手掛ける国内ベンチャーです。
メドレーが提供するオンライン診療アプリ「CLINICS」はコロナ以降、導入する医療機関が10倍に拡大。MICINが提供する「curon」も利用患者数が10倍に伸びたと発表しています。更に母子への感染リスクが懸念される産婦人科においても、妊婦向けのウェアラブル・センサーとアプリを提供するメロディ・インターナショナルが1.6億円の資金調達を果たし、タイやブータンなど発展途上国での実績を基に事業拡大を図るなど、さまざまな分野でDXが加速している状況です。


キャプション:メロディ・インターナショナルが開発するIoT 型胎児モニター。
ブータンでは全国土をカバーする50病院に導入されているという。(画像出典:プレスリリース

また、イノベーションの分野ではAIやロボットなどを活用した変革が進んでいます。
ビル管理や空港やホテルなどの公共性の高い施設の警備にはロボットが導入され、清掃や施設内の搬送など、対応する領域は日々拡大し続けています。

また、長年の勘と経験に依存していた職人的な作業をAIによって置き換える動きも活発です。
別記事で紹介した国内における外観検査AIはその最たる例です。また、農業のようなDXが遅れている分野でも、テクノロジーを活用した動きが見られます。JAXA認定ベンチャーである天地人は地球観測衛星のデータを活用し、衛星から得られる降雨や地表面温度などの気象情報と、地形の3Dマップに代表される地形情報を複合的に分析し、農業に最適な土地の判定や、その土地に最適な農作物を提案する技術を開発しています。

2020年5月にマイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラが決算発表の場で、「2年分のDXが2ヶ月で実現できた。我々はDXと向き合わなければならない時代になった」と語ったように、コロナ禍によってSDGsが定義する社会課題が、DXによって解決する方向へ大いに加速した面もあります。こうした変革はワクチン普及以降も止まることなく、停滞した他の社会課題にも影響範囲を広げていくでしょう。

Society 5.0が示すDXの重要性

アフターコロナ社会を踏まえながら、今後各国がSDGs社会の実現に向けて、アクションプランをアップデートする必要に迫られています。そこで日本が立案した「Society 5.0」についても触れておく必要があるでしょう。

Society 5.0は日本政府が2016年に提唱した未来社会のコンセプトを示すもので、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)といった私たち人類が歩んだ社会の次のモデルとして、ICTやIoTなどのデジタル革新を通じて、社会課題の解決と経済発展を両立させることをヴィジョンに掲げています。

Society 5.0の中核にあるのはDXであり、コロナ禍によって大きく前進した領域を先導に、今後さまざまな分野でDXによる社会改革が進むことが予想されます。

本記事の冒頭でスタートアップにおける事例を紹介しましたが、大企業においても実証実験や事業計画が進んでいます。小売大手のセブン&アイ・ホールディングスとNECは2019年に在庫管理と需要予測にAIを導入した結果、発注業務の生産性が30〜40%向上し、欠品率は27%減少することに成功したと発表しました。

また、コニカミノルタはDXを活用して、二酸化炭素排出量の削減に取り組むことを発表。2030年には自社だけでなく、サプライチェーンや顧客との取り組みを通じて、二酸化炭素排出量を削減量が上回る「カーボンマイナス」の達成目標時期を2050年から2030年に前倒ししました。

ちなみに二酸化炭素排出量の削減については、先日Tesla Motorsのイーロン・マスクCEOが優れた二酸化炭素回収技術を競う賞に、自身の資産から1億ドル(約110億円)を賞金として捻出することを発表したばかりで、大企業が率先して技術に投資し、成果を挙げていくことが社会的な義務として見なされる動きは、日本国内に限らず世界全体で今後さらに強まるでしょう。

Society 5.0のコンセプトはコロナに関係なく、あるべき姿として今後も目指すべきものではありますが、その優先順位や手法はコロナ禍によって見直すべきタイミングにあります。
変容した社会において、どのようにデジタル技術を活用しながら、目の前の苦難を乗り越えて、あるべき社会を実現するのか—多くのビジネスパーソンが当事者として、取り組まなければならないテーマではないでしょうか。

不可逆的な社会の変化を支えるDX

ここまで紹介したように、それまでの資本主義経済思想を大きく見直す流れを受けて、企業はSDGsなどのコンセプトを用いながら、具体的な解決策の実現を目指していました。その過程で起きたコロナ禍は、それぞれの課題に加速と停滞を招きました。この先の経済を担うのは経済優先の技術投資ではなく、持続可能性や共生を優先した技術投資であり、それを実現するのはAIやロボティクス、IoTなどを活用したDXによるイノベーションです。

先に挙げた世界経済フォーラム会長のクラウス・シュワブ氏は2013年のダボス会議で、「生産の最も重要な要素は、資本ではなく、創造性と革新する能力、つまり人間の才能に取って代わられつつある。工業化の過程で資本が手作業に取って代わったように、資本は今、人間の才能に取って代わられつつある。才能主義は新しい資本主義である」と語り、イノベーションを担うのは起業家精神や個々の才能に委ねられることを予見していました。

才能主義が本当に来るとするならば、社会を変えていくのは目の前の課題を解決しようとテクノロジーを用いてイノベーションを試みる人たちであり、それはDXの世界に飛び込むビジネスパーソンなのかもしれません。

 

DX事例、最新トレンドの新着記事を
ソーシャルメディアで受け取ろう

→twitterアカウントをフォローする
WP Twitter Auto Publish Powered By : XYZScripts.com