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自分が最強になれる場所に立つために、デジタルの力を借りる──澤円氏が語るDXの本質

公開日:2024/01/31 / 最終更新日: 2024/02/21

世界がコロナ禍に見舞われた2020年、ビジネスにおけるDXが一段と注目された年になりました。デジタル化が加速した反面、人によってさまざまな解釈のDXが語られ、自分の仕事とDXがどう関わりがあるのか、DXとは何なのか、その本質を掴みかねている人も多いのではないでしょうか。

元・日本マイクロソフト業務執行役員で、幅広いテクノロジー領域の啓もう活動を行っていたことで知られ、現在は独立して株式会社圓窓の代表取締役を務める澤円(さわ まどか)氏に、COVID-19時代を乗り切る上で必要なDXとの向き合い方、マインドセットについてお話しいただきました。

※2020年12月、澤円氏にJAC Recruitmentの社員向けの講演をしていただきました。本記事はその内容を再構成したものです。


澤 円

講師 澤 円 氏

(株)圓窓 代表取締役。
元日本マイクロソフト業務執行役員。
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフトへ。
ITコンサルタントやプリセールスエンジニアとしてキャリアを積んだのち、2006年にマネジメントに職掌転換。
幅広いテクノロジー領域の啓蒙活動を行うのと並行して、サイバー犯罪対応チームの日本サテライト責任者を兼任。
2020年8月末に退社。
2019年10月10日より、(株)圓窓 代表取締役就任。
現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。



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高速移動手段が、人が触れる情報量を爆発的に増やした


私はテクノロジーに関することをずっと仕事としてやってきたということもあり、DXをテーマに今回はお話しするわけですけれども、実際には「マインドセット」の話をしたいと思います。

DXの話をする時、どうしてもテクノロジーの各論に落ちる傾向があります。しかし今回はそういった話ではなく、DXに対してどういう考え方で向き合うといいのかをテーマにお話ししていこうと思います。

突然ですが、ニューヨーク・タイムズ1週間分のデータ量をイメージしてみてください。このデータ量は「あるもの」と同じデータ量だと言われています。何かというと、18世紀の人たちが一生のうちに出会う情報量と同じなんです。生まれてから死ぬまでに見聞きして脳に入ってくる情報量が、現代の新聞1週間分です。

では、現代の日本人が1日に触れる情報量はどれくらいか。これは、平安時代の日本人が一生で触れる情報量と同じだと言われています。これが、江戸時代の日本人が一生に触れる情報量ということになると、現代の日本人が1年間に触れる情報量と同じなんです。

平安時代と江戸時代で何が違うのか。それは「高速な移動手段」の出現です。これによって、人は遠くに速く行けるようになり、多くの情報に触れられるようになった。もちろん物流も発達しましたが、やはり「高速な移動手段」の出現が、人が触れる情報量を爆発的に増やす1つのきっかけになったわけです。

テクノロジーは「時間」と「空間」を超えるためにある


しかしCOVID-19によって、移動が自由にできなくなりました。こんな世界が来るとは、誰も覚悟していなかったでしょうし、準備もしていなかったと思います。つまり、移動ができる前提でさまざまなものがデザインされていたということです。でも、人類には残された道が1つだけあります。それがデータ通信です。

テクノロジーは何のために発展したのでしょうか。それは、時間と空間の制約を乗り越えるためです。時間と空間というものは、どうやっても変えられません。24時間を12時間にすることはできません。でも、1時間かかっていたことを30分でできるようにしたり、1時間かかっていた距離を速い電車に乗ることで、30分で行けるようにすることは可能ですよね。これがテクノロジーの力です。これからお話しするDXの話は、大概これで説明がつきます。

経済やビジネスのインフラはすでにオンライン上にある


外出自粛や在宅勤務というコンテキストになった時にも、データ通信というテクノロジーによって皆さんはお仕事ができたはずです。2020年はリモートワーク元年だといえるでしょう。

ところで、90%という数字があります。これは何かというと、世界に存在するデータのうち、直近2年で生まれたデータの割合です。今、それぐらい爆発的にデータが増えているんですね。

また、世界の全ての「お金」のうち、オンライン上に存在するお金の割合は93%と言われています。ちなみに、仮想通貨はこの数字には入っていません。

これはどういうことかというと、経済やビジネス、さまざまなエコシステムがオンラインで動いているということです。ですから「ITが苦手」と言っていてはビジネスパーソン生命の危機なんです。

先ほど、テクノロジーは時間と空間を飛び越えるためのものという話をしましたが、COVID-19によって空間の移動、高速の移動手段は奪われました。そこで残るのは、デジタルだけ。今頼れるものはデータ通信しかない。だから今、こんなにもDXが叫ばれているのです。


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COVID-19で世界は25年ぶりにリセットされた


「DX待ったなし」とも言える今の状況ですが、社長が「ウチもさ、DXで何かやろうよ」とおっしゃる時があります。私は、この「DX」の部分に別の言葉を入れたものを言われ続けた20数年でした。

「ウチもさ、インターネットで何かやろうよ」

「ウチもさ、コラボレーションで何かやろうよ」

「ウチもさ、データマイニングで何かやろうよ」

「ウチもさ、AIで何かやろうよ」

いろんな新しい言葉が出てきて、その都度言うんです。間違っているとは言いません。社長がテクノロジーに興味を持つこと自体は素晴らしいことです。でも私が言いたいのは、本質を分かっていない状態でバズワードに踊らされるのは危険だということなんです。

私は、今の状態を「世界はリセットされた」と表現します。新型コロナウイルスという脅威が現れて、人類が大変なことになって、というのが一般的な見方でしょう。でも、これはリセットなんです。それも25年ぶりの。

25年前の1995年に何があったかというと、Windows95の発売です。これをきっかけに世界は一気にインターネットでつながりました。それによってリセットがかかったんです。先ほどお話ししたデータ通信の時代の幕開けです。

インターネット登場の時に我々は学びました。それは「リセットの前後を比べても意味がない」ということ。ファックスとメールやチャット、どちらが便利か、生産性が高いかなんて今さら比較しませんよね?

COVID-19によって皆さんは働き方に選択肢があるということに気づきました。その選択肢の1つがリモートワークと言われるものです。大事なことは、リモートワークそのものが目的なのではなく、リモートからネットワーク経由で価値を出すという働き方が「選択肢として出てきた」ということ。これを受け入れるのが、DXを語る時の大前提です。

何か特定のツールを導入したらDXだとか、特定のデバイスを使ったらDXということではありません。たくさんの新しい選択肢が出てきて、それら1つ1つがデジタルによって成立しているということです。だから、場合によってはオフィスに出社して仕事をすることに価値を見いだすこともあるでしょう。それも選択肢です。どちらかが正しいという話ではなく、デジタルを使わなければならないという話でもなく、あくまで選択肢の話なのです。

デジタルを利用して「自分が最強になれる場所」を手に入れよう


このデジタルの世界に何が必要か、それを考える上でのキーワードが「マインドセット」です。マインドセットとは何か。デジタル大辞泉を引くと、「ものの見方。物事を判断したり行動したりする際に基準とする考え方」と書かれています。

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ここに4象限のマトリクスを1つ用意しました。縦軸が「知識・経験」、横軸が「スピード」です。これを、キャリアとか人材というところに当てはめて今から話してみたいと思います。

例えば、私に経理の仕事をやらせたらどうなるでしょう?私は経済学部出身なんですが、複式簿記の授業で左右が合ったことは4年間で一度もございません(笑)。そんな僕が経理をやったら、間違いなく左下の「“愚か”で“遅い”」です。向いてないし、興味もない。

さて、私は今回のようなプレゼンテーションを、2019年の1年間で306回やりました。2020年は減りましたが、オンラインで180回以上やっています。これだけやれば、ある程度の知見が得られるわけですが、私がイベント登壇を禁止されたらどうなるでしょうか。なまじっか経験があるものだから、絶対に左上の「“賢い”けど“遅い”」になるんですよ。「私に言わせりゃ」とか「私がプレゼンしていた頃は」などと言い出して、絶対老害になるんですね(笑)。賢いけれども、何も貢献しない状態。得意分野を封じられているわけですから。

では、私をプレゼン資料のスライド作成専任スタッフにしたらどうなるか。右下の「“速い”けど“愚か”」ということになるでしょう。スライド作成は単純作業ですから、頭を使わなくなるんですよね。ストーリーを作るところからやれば別ですよ。ただ、決まったもの、与えられたストーリーをスライドに落とし込む作業だけを渡されると、できなくはないけれども、そこに私の人材としての成長はないんですよね。

左上の「“賢い”けど“遅い”」。老害化した人間は、組織の成長を阻害します。右下の「“速い”けど“愚か”」は変化への対応に弱いですよね。左下の「“愚か”で“遅い”」は、組織を停滞させます。当たり前ですよね。向いていない仕事をしている人間ばかりの会社がうまくいくわけがありません。「みんなでゆっくり成長していこうぜ」ということが許されるのであれば、全然アリだと思いますが、残念ながら今の時代にそのスピード感で競争に勝ち抜くことはできないでしょう。

なので、本当は右上の「“賢い”かつ“速い”」を狙っていきたいわけです。これを言葉で表現すると、「自分が最強になれる場所を見つけましょうね」という話なんですね。

今、DXというキーワードがあちこちで取り沙汰されていますが、「何のためのDXか」という点が置き去りにされています。私は、「社員の人たちそれぞれが、最強になれる場所を見つけやすくするため」のDXであってほしいと思っています。

デジタルによってさまざまな選択肢が出てきた中で、自分が最強になれる場所を見つけてもらうというだけなんです。DXというのは決して、ツールを使うとか、デバイスに強くなることが目的ではありません。その人がパフォーマンスを発揮できるのはどこか、それもデジタルの力を使って、ということなのです。

最低限でも構いません。デジタルはすごく苦手だけど、顧客と話して心をつかむのは天下一品という人がいたら、最低限Zoomが使えるようになればいい。資料を画面共有したり、場合によっては注文用のサイトのリンクを送ってその場で発注してもらったりできれば、それで十分DXなんです。

「自己中」になって、自分のためにもっと時間を使おう


最初に、DXの話はテクノロジーやデバイスの各論になりがちだと話しました。僕も、各論の話はいくらでもできます。ARの可能性、ロボティクスの発展、自動運転の進捗…話そうと思えば話せます。でも、そんな各論に時間かけるよりも、大事なのはマインドセットです。マインドセットをアップデートして、どうやってデジタルで自分の時間を自由にしていくか自分が最強になれるかを考えることのほうがよほど大事です。

これは、別の表現をすると「自己中になりましょう」ということなんですね。自己中心的になって生きていくぞと心に決めて、いろいろとやることが増えてきた時に、デジタルの力をいかに使うか。使えるツールはたくさんあります。

そのためにはまず「やめることを」決めてください。今、マネジメント論で重要だと言われているものの1つがこれです。「やること」を決めるのではなくて、「やめること」を決める。これができるかどうかによって、すごく大きな差が生まれてきます。

例えばミーティングをしない。オフラインのミーティングをしないということではなくて、オンラインも含めてミーティングそのものをやめる。日本はミーティングが多すぎる国、出席者が多すぎる国として有名で、ハーバードビジネススクールでもネタになっているほどです。

例えばこのミーティングをやめて、デジタルで置き換えるとします。オンライン上に仮想の会議室を作っておいて、その中に必要な情報を放り込んでおいて非同期でやりとりする。そういう考え方のほうが合理的です。

やめることを決めてしまえば、使える時間が増えます。DXの本質は、その増えた時間をもっと自分のために使いましょうということなんですね。だからマネジメントは、社員1人1人が自分のために使える時間をどうやって増やすかにフォーカスしてほしい。

もう1つは、これだけデジタルが発展しているわけですから、発信することが大事です。人材も、発信量が多い人には人気が集まりますよね。発信内容の質によって、その人がどういう人間かを見極めることも容易になります。そして、その発信でお互いが「自己中」であることを認め合えばいい。

「自己中」というのは、誰かから搾取するという意味ではないですよ。自分が最強になれるポジションを知り、その中でパフォーマンスを出すことを「自己中」と言っています。妥協して、最強になれないことまで全部やろうとするから、人生の時間が足りなくなってしまうんです。その意味では、できないことがあった時に人を頼ることも大事です。「助けて」と言うことだって立派なアウトプットです。それができるように環境を整える、「助けて」のシグナルが出せるようにすることも、デジタルが可能にしてくれます。

「自己中」になって、できることを発信して、できないことがあれば互いに助け合う。その間にデジタルという非常に便利なツールがあるから、使っていこう。DXと向き合う上では、そういうマインドセットを持つことが最も大切なことなのです。

ライター

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畑邊 康浩

編集者・ライター

語学系出版社で就職・転職ガイドブックの編集、社内SEを経験。その後人材サービス会社で転職情報サイトの編集に従事。
2016年1月からフリー。HR・人材採用、IT関連の媒体での仕事が中心。


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