『武田PRA開発センター株式会社』と『PRAヘルスサイエンス株式会社』設立の背景について
武田PRA開発センター株式会社
PRAヘルスサイエンス株式会社
代表取締役社長
小川 淳 氏
松 園:
小川社長は『武田PRA開発センター株式会社』と『PRAヘルスサイエンス株式会社』の2社の代表を務められているのですね。
まずは、両社が担う役割と設立の経緯についてお聞かせください。
小川氏:
『武田PRA開発センター株式会社』及び『PRAヘルスサイエンス株式会社』は、『武田薬品工業株式会社』(以下、武田薬品)と米国のCRO最大手『PRA Health Sciences』との戦略的パートナーシップに基づいて設立されました。
昨今では臨床開発を行なうにあたって、CRO(臨床開発を受託・代行する企業)と製薬会社が共同で取り組んでいくことが当たり前になっています。
こういった背景のなかでこれまで以上に効率的な運営を行なっていくために、より戦略的なパートナーシップが必要であると考えられ、両社を設立するに至りました。
法人としては2つに分けられていますが、両社は一つのチームだと考えており両社合わせて”PRAジャパン”だと捉えています。
現状では『武田薬品』の運営モデルを引き継いだ『武田PRA開発センター株式会社』と、『PRA Health Sciences』の運営モデルを引き継いだ『PRAヘルスサイエンス株式会社』の
2社として運営しています。そのため、現状はジョイントベンチャーとしての位置づけで2社を機能させていますが、(設立から)2年後を目処に統合していく計画です。
また、機関としてのキャパシティを広げていくためにも、ゆくゆくは『武田薬品』以外のクライアントにも臨床データを提供していくことをゴールとして、臨床開発に取り組んでいます。
臨床開発(CRO)における今後の展望について
JAC Recruitment
代表取締役社長
松園 健
松 園:
なるほど。よく分かりました。CROに関する今後のマーケットについては、どのようにお考えですか?
小川氏:
以前と求められているものが、変わってきているように感じています。以前は、製薬会社の研究から新薬の開発が行なわれるのが主流でしたが今では、大学の研究所などでもメディカルアプリケーションを模索される教授などが増えて、さまざまなところでバイオテックが生み出されるようになりました。
多様な研究を並行して行なう製薬会社ではなく、一つの研究で成果を出す個々の組織が新薬を開発する。こうした形が主流になりつつあるのを感じています。
ただ広いパイプラインを持たない個々の研究者の場合、専門分野以外の対応が難しいので、臨床試験を行なったあとのデータ管理や治験の段取りなど、各専門分野への依頼といったニーズは増加傾向にあります。そういった意味でも、今後はICCC(治験に関する業務を代行する機関)の分野などへの参入にも可能性を感じています。
松 園:
専門分野の狭い研究者がその専門分野で活躍する一方で、専門分野に長けた製薬会社の強みをさらに活かすという意味でも、『PRA Health Sciences』とパートナーシップを組んだということですね?
小川氏:
そうですね。そうすることで、より強く、効率的な運営が可能になると考えています。『PRA Health Sciences』にも、我々がフレキシブルなサービスを提供できる点を評価されているのだと思います。
松 園:
IoTやAIといった最先端技術をどう組み込んでいくかということが各業界のテーマになっていると思いますが、臨床開発の分野ではどのような動きがありますか?
小川氏:
はい。臨床開発の分野にも最先端のテクノロジーを使用した技術を導入する動きが出てきています。
昨年、タブレットやスマートフォンを通じたサービスを提供しているパラレルシックス(Parallel 6)という会社を買収し、臨床開発の実施ツールの開発に取り組んでいます。
これが実用化されれば被験者がスマートフォンなどで手順を確認しながら臨床試験を実施でき、その結果もツールを通して機関が確認できるようになります。パラレルシックス(Parallel 6)はあらゆる言語に対応してサービスを提供できるプラットフォームを持っているので、これまでよりも、より効率的に臨床試験を実施できるようになることが期待されています。
また、PRAがこれまで積み上げてきた膨大なデータベースの管理を行なうためにアメリカの企業であるシンフォニーヘルス(Symphony Health)という会社の買収も行ない、データベースの管理にもより注力している段階です。
グローバル化が進むなか、臨床開発(CRO)は今後どのようにグローバルとの融合を行なっていくのか
松 園:
タブレットやスマートフォンを使った臨床開発の実施ツールがオペレーションに組み込まれれば、さらにグローバルな展開が実現していけそうですね。
小川氏:
そうですね。遠隔での実施が可能になる分、可能性はどんどん広がっていくでしょう。
今後は、ローカルなニーズにも積極的に携わっていきたいと考えているので、そういった意味でも国の垣根を意識せずに展開していけるフィールドが整うことを嬉しく思います。
グローバル化が進んでいるからといって、そこを担う人材が必ずしもバイリンガルである必要はありません。
実際にクリニカルオペレーション(臨床試験に関わる医療機関や社内組織をつなぐ役割)を担当しているスタッフは、もとは英語が堪能ではありませんでした。
そのスタッフは、海外留学と海外での実務経験を通じて、ビジネスに必要な言語レベルを認識して個人的に自己研鑽を重ね、徐々に会話力を身につけました。
今でもいわゆる日本語的な英語ではありますが、十分そのレベルでリーダーシップを発揮して活躍しています。
松 園:
学ぶ意欲さえあれば、現時点で英語力がなくても良いのですね。
ちなみに、小川さんはこれまで何年間もグローバルな環境に身を置いて活躍されてきましたが、そのなかで感じる日本の特異性はどんなことがあるでしょうか?
小川氏:
最近では、大きく異なる点はあまりなくなってきているように感じます。敢えて言うなら、インターフェースの違いがある点でしょうか。
たとえば、グローバル的な思考では報告は何でも電子メールで行なう。一方日本ではまだメールではないコミュニケーションで報告を行なう文化があるなど、コミュニケーションの取り方に多少の違いがあります。ですが近年の日本では、そういった文化・風土の受け入れ体制にも寛容になってきているように感じています。
また、そういったグローバル的な思考は臨床開発の分野だけに関わらず、広い分野に浸透していっているのを日常のなかで感じることも多いです。
たとえば、サービスの在り方について。10年前の日本は、「顧客至上主義」が当たり前でお客様に対して最上のサービスを提供するのが当たり前という風土でしたが、現在はその点もグローバライズされていると感じることが多々あります。
日本におけるサービス業の販売スタッフは外国のスタッフが大きなウェイトを占めており、日本人が求めるサービスの期待値のようなものが時代の流れとともに変わってきています。
こうした日常のひとコマをみても、日本における特異性はどんどん姿を消しており、各分野でグローバル化が進んでいるのを感じます。
人口減少に伴い、一人ひとりが合理的に生産性を高める必要性が出てきたことで、価値観を変えていかなければならなくなったという側面も影響しているのかもしれません。